5 禍根

――今回のチャレンジャーは永山堅持さんでした。獲得賞金は5000万円。見事手にしました。シャークファイトは勇気あるチャレンジャーの応募を待っているよ! レッツシャークファイッ!



「何がだよ」


 動画を見終えた涼太は悔しくつぶやいた。

 もう何度目になるか分からないほど観た映像だ。動画の中で父は右足を失いながらも生還し、手を夜空に突きあげて叫んでいる。


 これがFreeに投稿されて2週間、その後音沙汰はない。


 検索履歴を見たあの日、涼太は母を連れて警察に駆けこんだ。

 父を今すぐ探してほしいと。

 だが証拠はないと取り合ってもらえなかった。

 検索履歴はシャークファイトに興味を持った人ならば調べることだし、有り触れたことで理由にならないと。


 だが、結局帰らずに父の姿は3週間後、動画のなかで見つかる。

 警察は何回か聞きこみに訪れたが、向こうも手をこまねいている様子だった。


 パソコンは預けて解析してもらっている。

 腹立たしいものがあった。

 未然に防げたことではないのか。そう思って止まれない。


 借金の取り立てはあの日から止んで、きっとどこかのルートで支払われたのだろう。

 でも父は帰ってこなかった。




 学校にいくと慌ただしかった。みんな騒いでいる。

 どうやら次のシャークファイトの告知があったらしい。


「涼太、お前の親父まだ帰ってこねえの」

「そうだよ」


 父のトライアルが動画投稿された時、クラスメイトは騒然として、その後父をヒーローだと大称賛した。どこかで倫理的に嫌悪しながらも、命をかけたゲームを楽しんでみる視聴者が実際にいる。これがこの世の中の実情だろう。

 バカらしい。


「たぶん帰国の手続きとかあるんだろうな」


 友人が呑気にいった。この頃にはシャークファイトは海外でやっているとのうわさが広がっていた。父はパスポートなんて持っていない。事前に取得したか、あるいは。

 とにかく家族が知らないことが多すぎた。


「足がないから帰ってこれないんだよ」


 冗句のようにひっかけて、自分の感情を諌めた。

 懸命に挑んだ父をどこかで軽蔑していて、そうした反感は高校生という難しい年代からくるかもしれない。

 自分の苛立ちを理解しながらも、父へはやっぱり複雑な思いがある。

 苛立ち混じり着席してカバンを開けると、クラスメイトがスマートフォンを向けた。


「涼太見ろよ、りのりんちゃんねる」


 りのりん。動画サイトFreeで活動する、学生の界隈で有名なギャル系動画投降者Freeter(フリーター)だ。知っていたが興味があって見たわけじゃない。

 タイトルは緊急告知とある。


 よくあることだ。どうしてそれで騒ぐ。

 画像のなかの、りのりんが猫撫で声で元気に喋った。


「みんな、あたし。シャークファイトに参加するよ!」

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