7 実家の母

 インターホンが2回鳴って、来客を知ると森山敏子は玄関を開けた。

 すぐに不快な表情になる。


「すみません、警察です」


 突きだされた警察手帳には警視庁の浅井州とある。無精ひげの汚い面。となりの若いのも刑事だろう。一方は整った顔をしていた。


「あまり話したくないんです。動画のことでご近所さんからも色々いわれて」


 森山敏子は痩身を包むようにいった。玄関先では迷惑なのだろう。上がってくださいというと2人を自宅に招いた。

 周囲は山に包まれた閑静な場所、畑もある。亮はこの場所で育ったのだろう。

 居間の座卓に着いて出された茶には手をつけず、本題を切りだした。


「シャークファイトのことでなにか2人から聞いていませんか」


 すると沈黙の間もなく、森山敏子は溌剌とした。


「聞いてませんよ。仕事で数週間留守にするから莉理を預かってくれって」


 彼女の太ももにじゃれつくように莉理が座っている。向こうに行ってなさいといったがそれを浅井が留めた。小学二年生ということだが、背丈は少し小さめだった。水色のスカートをはいていた。


「数週間ですか」

「なんの仕事って聞いても答えなくて」


 そういって莉理の髪を撫でた。


「それ以降連絡はありますか」

「あるわけないでしょう、死んだんだから」


 その言葉に浅井刑事は逡巡した。

 再び別の空き家から投稿されていたシャークファイトの動画。すぐに押収したが解析はまるで進んでいなかった。


「合成動画という可能性もありますが、詳しいことはお話できません」

「ほんとイヤな嫁ね。だから反対してたんです」


 なにかに焚きつけられたように森山敏子は愚痴をこぼした。


「奈津美さんはあんまり気の利く嫁じゃなかったんです。だから、亮もイライラとしていて。ボタンの押し合いなんて見られたものじゃなかったわ。前はあんな子じゃなかったのに」

「動画が本物だとしても、奈津美さんの方は生きておられるようですが」


 それにはうんざりといった様子だった。最愛の息子を失って疎んだ嫁が生きている。たしかにどうでもいいことだよなと浅井は独りごちた。

 浅井刑事は目線を落として小さな莉理のほっぺに手を添えた。


「莉理ちゃん、お父さんとお母さん前に何かいってなかったかな」


 子供声を作って問いかけると、莉理は口を引き結んで「ううん」と首をふるふるとした。


 奈津美の仕事先での証言はある。2人の結婚生活は上手くいっていなかった。

 原因は亮の暴力。何度か長袖を夏に着ていたことがあったようだ。


 莉理は間顔になるとあどけない声でいった。


「お父さんもお母さんも帰ってこないの」


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