シーン3 にぎりて会
また、だだだと近づいてくる足音が聞こえた。
「ごめんごめん、ごめぇぇぇん!」
さっきの青年よりも、さらに、ぶっちぎった高揚感で、初老の男が
「天女さまにおかれましてぇはっ。このような、あばら家にて失礼をっ」
「あばら家ってぇ」
「そりゃ、里いちばんの貧乏だが」
「くるしゅうない」
ミルフィオリは天女(仮)らしく、ふるまう。
男たちは土間に、はいつくばった。
目線をあげると、ミルフィオリのそろえた真白い足が目の前にあり、視線をはずすが吸い寄せられてしまう。
「
いい加減、寒いのでミルフィオリは催促した。
「はいっ。はいっ。男所帯ゆえ、このようなものしか、ございませぬがっ」
「よし。着替える」
立ち上がると同時に
(あー、死ねる。これ、死ねる)
妻に先立たれてから数年だ。
もとより、自分の存命の間に
先代の
「で? 天女は何をすればよいのじゃ?」
((仮)だがな)
着替えたミルフィオリは問うた。
「私は、意図せず
「ははっ。言い伝えによりますと、
「専門外じゃ」
ミルフィオリは
「帰ろうかな」
「そんなっ」
「何か、何か、お願いします! 里の者は皆、天女さまのご降臨を心の支えとし、言い伝えて参ったのですぞ!」
(そうか。
ミルフィオリは考えた。
(乗ってきた飛行艇はこっぱみじんだし。助けは来るとは思うが、しばし待たねばならん)
「何をしたらよいか?
ミルフィオリの言葉に、
「まずですな」
ざわざわと人垣ができている。
里にひとつしかない、お
「はい、はい。天女さまの前にひとりずつ進み出て――」
「できるだけ、一家ずつ並んでくださーい」
「何じゃ。これ」
ミルフィオリは
「
ミルフィオリは、目の前に進み出て来た
次に来たのは子供の父親か。男は、その右手を衣の腹でぬぐって差し出してきたが、衣についていた泥で、よけい汚れた。
ミルフィオリは気にせず、その手も両手で包み込む。
「天女さま」
男は、天にも昇る心地のようだった。
次は、よろよろと
「い、生きて、また天女に会えるとはなぁぁぁ」
感無量という感じだ。
しっかと、ミルフィオリの両手を握りしめる。
「
「あぁ、
「
「お名残り惜しい。前の天女さまに会うたとき、わしゃ、
前の天女、何、やった?
「おかげさまで長生きできましたで」
さらに長生きしそうだ。
日がかたむくまで続いた。
「
里の
「おまいらも、天女さまを、おもてなしする手伝いをせぇよ」
「天女さまをお迎えした里は栄えるって言い伝えだ。ここんところ、日照りが続いたり、都では
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