シーン2 咩豆売(ひづめ)の家
女子が指さす先をミルフィオリは見た。
「
「そこだ」
なおも指さされる方を見ると、ほったて小屋があった。
(森の木々に一体化してわからなかった!)
ミルフィオリは目をみはった。
(見事な
そして、小舟から岸に降りると、女子は「どんぞ」と、背を向けてきた。
「ん?」
「おぶされ」
「えっ?」
ミルフィオリは、とまどった。
「だっこ、のほうがえぇんか?」
女子は、ミルフィオリをすくいあげかけた。
「お、おぶされで願うっ」
ここはおとなしく、女子の背中を借りることにした。
「しょっつかまって」
女子は、しっかりミルフィオリを背負って歩いて行く。
背丈はミルフィオリのほうがあるが、そこは天女(仮)。
「羽のように、かるいなぁ」
女子は、まっすぐ進まず、時々、わきによけた。
「この時期、栗のイガが落ちとるけ」
足元の、イガイガのついた実をよけているのだ。
(ああ、そうか)
ミルフィオリは
そのまま歩いたら、栗のイガが刺さったかもしれない。
ほったて小屋まで来ると、女子はミルフィオリを背中から降ろした。
「ありがとう。ヒ、ヅ、メ」
「どういたしまいて。さ、入ってくりょ」
「お邪魔します」
ミルフィオリは優美に敷居をまたいだ。
土間の固めた土が、足裏にひんやりとした。
「そこに座ってくりょ」
女子は、土間から段になった上がりかまちを指した。
「足、洗いましょ」
ミルフィオリは上がりかまちに腰かけて、しがしげと土間を見た。
(ワンルームじゃな)
土間には
木のフタをした釡には湯気が立っていて、湯が沸いているようだ。
女子は幼児ひとりしゃがんだら入れそうな水ガメから、
それを、ミルフィオリの足元に置く。
そして、腰かけたミルフィオリの前にひざまずき、両の足を
(ほぉ)
ミルフィオリの冷えた体がほどける。
熱いと思えた湯は、じんわりなじんでくる。
そのままの恰好のところへ、「
女子は、とろりとした液体を満たした木の椀を持って来てくれた。
ミルフィオリは受け取り、一口すする。
飲みごたえのある液体は、ほのかに甘い。
(しみるぅ)
「あったまるでぇ」と、
「ん。あったまるぅ」と、ミルフィオリも目を細めた。
そのときだ。外から、さわがしい足音が近づいてきていた。
「
突然、青年が駆けこんで来たのだ。
「!」
そして、ミルフィオリに気づいて固まった。
「はぁ。んで、今、おもてなししとる」
「わぁぁぁぁぁ!」
青年は腰を抜かさんばかりに驚いていた。
「まだっ、まだっ、天女さまの降りられる
「そんなこと言っても、降りられたものは降りられただ」
「そそそそうだけど! わぁぁぁぁ!」
さわがしい。
「て、天女さまに
それから、青年はミルフィオリのはおった
「あいにく。それしかなかったで」
「持ってくる! 持ってくるで!」
青年は、がばと土間に土下座した。
「お許しを! お許しを! すぐにお召し物を用意しますっ!」
「それは助かる」
ミルフィオリも、ま裸に
「それから、ここ、寒いぞ」
すきま風が入ってくる。
「すぐにっ。すぐにっ直させますっ! ちょっと、お待ちをぉぉぉ」
青年は駆け去って行った。
「あれ、何者ぞ?」
ミルフィオリは
「
「落ち着きのない男じゃ」
「それは。天女さまが急に降りられたもんで。百年だかごとにじゃと聞いておりましたで、オリも生きとる間に、おもてなしすることはないなぁと油断しておった」
ミルフィオリは思い出した。
というのは建前で、天界的には〈窓際〉と呼ばれる仕事だ。
「次に来るの、誰だったっけか」
ミルフィオリでないのは、たしかだ。まだ学生だし。
この訪問はミルフィオリにとって想定外だったが、
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