第7話 工作の裏側で
「ロイトリンゲン伯、私と一緒に王都に来て貰えませんか?」
アルノルトがクラウディアにそう求められたのはエルランゲンが襲撃を受けてすぐのことだった。
「理由をお伺いしても?」
クラウディアの意向など知るはずもないアルノルトは、キョトンとして聞き返すことしか出来ないなかった。
「ゲハイメ機関の諜報員よりの報告ですが、エグモント陣営の兵に動きがあったようです。このタイミングの兵の招集、もはや何を企んでいるかは明白ですよね?」
兵の招集があったことを聞くと、アルノルトも察しはついた。
「襲撃の計画はおそらくエグモント陣営によるものでしょう。或いはヴィルヘルミナ陣営を潰すための共闘体勢か……」
「何れにせよ、このままエグモント陣営の思うがままになるのは面白くありません。故に彼らの王都入場を阻止します」
クラウディアの考えにはアルノルトも深く同意だった。
エグモントの思い通りに事が運べば、次の矛先が自分になるからだ。
或いはエグモント陣営とディートリヒ陣営とでの戦闘になれば国を二つに分ける内乱となることは間違いない。
それはそれで関係の無い民衆の犠牲が多大なものになることは明白で、アルノルトとしては避けたい結末だった。
「そうですね。ディートリヒ陣営に恩を売って今後彼らを利用することも可能かもしれません」
アルノルトはすぐさま同意するとその場に居合わせるレーナに視線を送った。
「如何程の護衛を用意すればよろしいのでしょうか?」
「三十もいれば十分だ」
高位貴族の護衛としては些か不十分ではあったが、何しろ悠長にしてられる時間は無かった。
「かしこまりました」
一礼して去っていくレーナをクラウディアは羨ましそうな目で追った。
「優秀な補佐役をお持ちのようで」
「そういうクラウディア殿下こそ、優秀な侍女が付き従っているようで」
アルノルトの視線は、クラウディアが唯一連れてきた侍女の腕元へと向いていた。
「それも短剣でも
アルノルトは筋肉の付き方からそう分析した。
「あらまぁ、辺境伯には女性の肢体を見つめる趣味がおありで?」
それをクラウディアが茶化すとアルノルトは
「これは失礼」
と一言、クラウディアへと向き直るのだった。
◆❖◇◇❖◆
やがて二人の元へレーナが戻ると胸甲を纏った凛々しい出で立ちとなっていた。
「出立の用意、全て整いました」
「ご苦労」
クラウディアの手前、いつもよりかは主従めいた口調で言葉を返しつつアルノルトは、クラウディアへと向き直る。
「参りましょうか」
アルノルトの言葉に、クラウディアは微笑み返して言った。
「私は馬車でなくて構いません。それよりも馬具をご用意願いますか?」
その言葉にレーナがすかさず、
「既に馬車のご用意は整っております!」
と言ったが、
「足でまといになるつもりはありません」
キッパリ言われてしまえばそれまでだった―――――。
かくして、クラウディア陣営がどの陣営よりも早く王都に乗り込むに至ったのだった。
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