第8話 注目を集める令嬢は内心やさぐれつつも行動する


学校、そこはそれなりに清潔そうに見えるし悪くはなさそうだった。


きっちり整備された花壇に楽しそうに登校してくる子息令嬢……。私も同世代の人間がいるのは嬉しいし、少しは仲良くしたくはある。


だけど……。


「あれが見世物王女よ」

「あら、今日は見窄らしい灰のドレスではないのね」

「従者の子かわいー」

「あなた話しかけなさいよ」

「やだー」



既に情報が広まっている。個人の情報とか流し放題。陰口は私のいないところで言え。メンタルに来るから。



「―――チッ」


「まぁっ」



つい陰口を言っていた御令嬢を睨みつけてしまった。入り口には入れたしもうしばらく立ち止まって不可視のピコマシンを散布する。


この学園内はピコマシンの散布が完了していない未知の土地だし。なにかの罠だとすれば私なんてひとたまりもないかもしれない。



「あら!御機嫌よう、ご一緒に登校しませんか?」


「や……え?あ、はい」



反射的にやだって返しそうになった……みるとお茶会を邪魔してしまったアーデル第5王女殿下が後ろからやってきていた。


表情を見ても悪意はなく少し嬉しいようだが、なぜだろうか?お茶会の邪魔をしてしまったのにこの国の貴族としては珍しい……。いや、もしもなにかの罠があったしてもこの距離なら盾にできるな。……後ろの護衛や従者は微妙な顔を隠しきれていないのは気になるが。



「学園には5つの庭園がありまして、今は東の庭園に見応えがありまして!」



学園について色々教えてくれるアーデル殿下。見かけは可愛いが何か裏があるんじゃないかと勘ぐってしまう。



「そうなのですか」


「はいっ!その、よければお茶会にお誘いしたいのですが!!」



えー……、この子、なんで私に構うんだろうか?


-選択肢がある。・仲良くなる・無下に断る・作戦会議・逃げる-

-仲良くなるで-

-善意じゃね?-

-いや~地上の令嬢は陰険だし怪しくない?-

-人脈づくりに行っとくべき-



「では余裕ができればおねがいします」



仲良くはしてみよう。この子可愛いし悪意は今のところ感じられない。


公務として嫌でも付き合う必要のある王女だし、始めから敵意剥き出しの人間を窓口にするよりはよっぽどマシだろう。



「はいっ!お待ちしています!!」


「えっと、私はこちらのマナーとか全然知りませんよ?」


「構いません!ちゃんと来てくださいね!」



華のような美しさにあどけない可愛らしさの残る王女殿下だが、犬の尻尾が見えるようだ。嬉しそうな笑顔が眩しい。


教室まで案内してもらい、教師の講義が聞こえる中に入る。



「ごきげんよう、ルイス・スカイ・モルペウスです。短い間かもしれませんがこれからよろしくお願いしますね」



講義の邪魔をしてしまって心苦しい。生徒の席は階段状になっていて講義が見やすくなっているのは興味深い。今どき学校に学びに行くというシステム自体が物珍しい。ネットワークに繋げて数千人同時の授業とかはないのか。



「担任のバマーリス・レットです。席についてください」


「どちらに座れば?」


「こちらへどうぞ、先月ルークナーは領地に帰られましたので」


「なるほど、ではそちらへ。講義を続けます」



赤毛の女の子、詳細情報はなしか。



「よろしくお願いします、講義の邪魔になりますので挨拶は後ほど」


「はい、よろしくお願いします。教科書一緒に見ますか?」


「結構よ、スキャン済みですので」


「すきゃ……?はい」


-現地人に優しく!-

-スキャンでは通じないのでは?-

-あー、なんかかわいそう-


「強がっちゃって」

「教科書も買えないのかしら?」

「あれが噂の……」



うるさいやい



授業は1年の開始一月だけあってそこまで進んでないのか魔法の発動や杖についてだ。杖は発動体として人体の魔力を増幅する役割があり、魔物の素材がよく使われると。面白い。


視覚にデータを展開しているし賢者たちの注釈もリアルタイムで更新されてちょっとした話でも面白く聞ける。



「入学金も支払ってないんですって」

「ちょっとぉ、言い過ぎよぉ」



にこやかに聞くことも公務であるが常に人に悪く見られるのは面白くはないな。



「ルイス殿下は杖などお持ちではなさそうですがどのように魔法を発動するのでしょうか?」


「『魔法』の定義にもよりますね、例えばわたくし、今ここに教科書がありませんが私に見える教科書をこのように可視化するのは魔法に含まれるでしょうか?」


「は?」



眼の前に見える教科書や関連データを立体映像で見えるようにする。彼らの言う魔法とはなんだろうか?火を出せれば魔法?水を出せれば魔法?これは科学魔導技術だがそれでも彼らにとっては理解できない魔法に分類されるのではないだろうか?


片手の指先に火・水・砂・風を出して見せる。これで一定程度侮られずに済むかな?



「し、四属性?!それも詠唱もなしに集中もせずに同時発動!!!??いや、殿下の前に展開された未知の魔法も含めると五属性っ?!!」



バマーリス教師の顔が驚きすぎてて笑える。教室の他の生徒たちも驚いているのがモニタリングできる。



「いえ、単なる手品のようなものです」



-いきりルイスたんドヤぁ-

-聞こえるようにマウントとってた子が真っ青で草ww-

-目、見開いててww最高のリアクションwww-


うるさいよ、それよりも学園内のスキャンは進んでる?


-全然です、空間や扉ごとに壁があってなかなか進めません-

-地上の子かわいいよハスハス-

-ただ嗅覚センサーによると一部の部屋の香水やばいよ-


まぁ仕事してるみたいで安心したよ。あんまり性的な部分見すぎると賢者でも権限取られるから気をつけなよ?


-へーい-

-わかってますって姉御!男は男が監視して、女は女が監視してますって!後は人工知能だよりよ!-

-わわわ、わかってるしぃ?!-

-俺はルイスたんを見てるよ-

-いつでも悪口言ってるやつを撃てるからね-


色々と言いたいこともあるが……あんたらがいて心強いよ。

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