第6話 空からやってきた■■
あの少女、ルイス・スカイ・モルペウスは突然現れた。
私ももう歳だし優秀な息子たちのいずれかに王位を譲ることになるだろうがまだまだ現役。新たな妻を紹介して流石にフェミーには歳のこともあって責められた。重い空気の中新たな側室について贅を凝らした食事をとっていたのだがそれよりも事件が起きた。
少女が空から降ってきたのだ。天井をぶち抜いて。
「陛下!お下がりください」
「何奴っ!」
「侵入者だ!!王をお守りしろっ!!!」
「くっ…………そ怖かった!ふざけんなよ!!地上の王には礼儀もないのかゴルァ!!!!」
「くっ!無礼者が!!!」
地上の王という言葉には聞き覚えがあった。王家の伝説で「山の王と地上の王」という話があった。地上を我々が支配し、彼らは山を支配するという……おとぎ話のように思っていたがそれでも我ら王家だけは知っていた。彼らがいるということを。
騎士団長が剣を抜いてそのまま部下とともに飛びかかってしまった。
「まっ………て?」
とにかく騎士団長を止めねばと声をかけようとしたが、その前に向かっていた全員、いや、武器を持ったもの皆が倒れ込んでいた。
「―――――な……に…………が……………?」
―――――何が起こったのか全く分からなかった。ただ彼女が手を横に上げただけ、それで全ての兵士は倒れて声も上げることもない。
「えーと地上の王でおけ?こほん、わたくし、ルイス・スカイ・モルペウス、この度は強引な招待ですが先触れぐらい出してほしかったです」
「い、意味がわからないのだが?」
「千年前の伝承によって貴方方が引き寄せたのでしょう?本当に怖い思いをさせていただきましたわ」
灰色の下着で堂々と佇む彼女は何処にも華美な装飾はされていない、だというのに目を離せない。
……一瞬でも目を離せば、私が兵のように這いつくばることに成るだろう。
「何を言ってるのかわからないのですが、それよりも服を着ないのですか?」
「失礼、これでどうでしょうか?これはトレーニングウェアーで別に卑猥なものではないんですが……というか呼び寄せるならタイミング見てくださいよ。」
彼女がぱちんと指を鳴らすと先程の下着のような服装から同じ灰色の簡易的なドレスとなった。やはり彼女は神なのだろうか?
何を言ってるかはわからないがこちらに非があると言いたいのはすぐにわかった。
「殺した……の、ですか?」
聞くべきことはもっとあったはずだが私の口から出たのは兵たちの安否だ。
傷も無いのに一瞬で倒れた。
精強なる騎士団長も、武器を構えた我が子も、多くの兵が、騎士がすべからく玩具のように倒れている。后に従者たちも意識を失っている。世界で余と彼女だけが生きているかのような不思議な空気。
「いえ、気絶させただけです」
なんでも無いように言う彼女が怪物に見えた。いや、まるで地獄の底から暇を持て余して出てきた魔王だ。
この場はなんとか戦意がないことを伝えて呼び出したのは王家なのかもしれないがここには術者がいないし帰ってもらっても大丈夫なことを伝えると彼女は飛んでいこうとした。
………しかしテラスから飛んでいく彼女はなにかにぶつかり、王宮の敷地からは出られないでいた。
原因はわからないしとにかく平謝りで国賓として対応し、全面的に協力することを申し出た。
彼女を知るものは皆恐怖を感じているだろうし、ぞんざいな扱いはしないと思っていたのだが……気絶したものは覚えていなかったし、条件を調べると婚姻が条件だということだけは発覚して誰かわからないからと余を含む王家の男児全員と仮の婚約者となったのだが……もちろん貴族たちは大きく反発している。
眼の前でお茶を一杯飲むほどの時間で立派な邸宅らしきものを作った彼女をなぜ他のものは畏れないのだろうか?不思議で仕方ない。
彼女は地上の空気が合わないと息苦しそうにしているが、復讐でもしようとしたのか晩餐会で気絶した彼女に近づいた騎士団長は両手両足に風穴が空いた。
寝ていてもこれだ。もしも晩餐会で彼女の逆鱗に触れればあの場全員の人間の命などあっけなく散っていたことだろう。
「見応えありましたね、オレンジジュースはどうですか?」
「飲み物でしょうか?」
「美味しい果実の飲み物です」
「いただきましょう」
何もない場所から、天上の飲み物をそっと出す彼女。
―――力の差は歴然、彼の国の人々が来れば地上の王家は何も出来ずに滅びる。ならば余は王として彼女を敬おう。
極上の飲み物で喉を潤し、夢でも見てるのかとフラフラと執務に戻った。
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