第3話 この国に来た理由


そもそもこんな国には来たくなかった。


1000年前の約束で国が存続していたら縁をつなぐとかいう馬鹿げた……酷く馬鹿げた理由でここにいる。


私達の王家には一応伝承は伝わっていたが、どんな条件でどちらがどのように行うかなどの条件は一切なかった。伝承があるだけで口約束や何もない可能性だってあった。



「そんなわけで来年は向こうの王家から連絡が来るかもしれないな」


「えー無理でしょ、だってこんなにも長い間断交してたのに」


「まぁそうなんだが……」



位置的には近い、だってお互いが見える位置の国なのだから。


彼ら地上の王と我々空の王……元は山の民なんて呼ばれていたそうだがお互いが見える位置にあって交流は一切していない。なにせ4000メートルの切り立った崖があるのだ。


お互いの王家では一応1000年前に交流があって、国の滅亡の可能性があればお互いに助け合おうとは約束していたがそんなことはおきなかったしそもそも関わろうという気はない。


こちらからなにか言ってもいいけど、地上は見るからに文明が遅れているし、私は私でライフワークがあったし興味がなかった。



だけど私の体はなにかの力場で包まれ、気がつけば地上の王のくつろいでいるロイヤルファミリーの晩餐会のど真ん中に降り立ってしまった。天井をぶち抜いて。


いやー、交戦状態になったのは始めてだけどなんとか意思疎通は取れてお互いの事情は把握できた。



でも最悪なことがあった。



私は王家で唯一の女性で、こちらの王家の男は全員婚約者がいる。新たに生まれてくる男児も含めて………。


お互いに寝耳に水の婚姻、こっちも向こうも最悪の状況だ。すぐに出ていこうとした私だが王宮から出られない。出ていこうとするとなにかに遮られてしまう。


私達にはそういう力はないしやっているのは彼らだというのに彼らは私を帰す方法を提示できなかった。



―――――そんなわけで超強制的に私は嫁ぐことになった。



まぁしかし、いきなり王位継承権を持つ『ロイヤルファミリーの男全員と婚約らしきものをしたという謎の女性』が貴族社会バリバリの地上の人間に気に入られるわけもなく………まぁ居心地は悪い。


王様には申し訳無さそうに対応してくれてなんとか出来ないかと王様自身と王位継承権のある人間全員に婚約破棄をしてもらった、他国に留学中であったダーノン第5王子まで呼び寄せてもらってようやく王様を含む男児全員との婚約破棄がかなった。



だというのに私は帰れない。これは腰を据えて対応する必要がある。



私としても来たくて来たわけではなかったが休暇程度にはいてもいいと初めは考えた。「普段接することのできない別文化との交流ができる」と何かしらの特別な体験ができると少しは胸がときめいた。



僅か半日、王城を好きに見て回り……帰りたくなった。



ここ、衛生的・倫理的・生理的にダメだ



飲水は井戸水、水質検査してから出してますそれ?お風呂はいるの普通は月2?こっちも来たくてきたってわけじゃないのに貴族の皆様もうちょっとせめて歓迎してくれません?奴隷当たり前なの?人権とか倫理的に……普通ってマジか………性奴隷もいるって?生理的にアウトぉぉっ!!!


しかも空気も悪い、体質的に合わないから部屋の空気清浄機がないとかなりきついし、汗臭い体臭と香水の匂いがミックスされて息が詰まる。たった一人のそれできついのに何人も集まると汗と酒と香水が混じり合って目に染みる。うっかり呼吸すると吐きそうになる。


ここの人たちは嗅覚がないのだろうか?ほんときっつい。


やっと実家には連絡が通じたし支援物資も届き始めた。グレーのドレスともおさらばだ。王様はドレスも用意してくれようとしてくれたが獣の革を使った物を腹に身につけるなんて冗談じゃない。なんか臭いし絶対汚い。



「次は何をすれば良い?」


-スキャンした書籍は解読中です。-

-書籍だけじゃなくて人に地上の魔法を教わるのも良いでしょう。-

-身の安全のために護衛を伴ってみては?-

-地上の人間に蛮族扱いされていては軽んじられるでしょうし、一目で驚かせるほどのドレスで晩餐会に出るのはどうでしょうか?-

-魔法的装置の位置の把握にもう少し広範囲の植物を採取しましょう。-



………まぁ、そうなるよなぁ。


自分でも引きこもってこのままここで寝てしまいたいという気もあるし、なんで私がこんな目にあってるんだと嘆きたくもなる。だけど――



「―――今日はもう寝る、肺が悪くなりそう」



-お疲れ様です。-

-空気清浄機用のユニットを増やしときますね。-

-おつおつー。-

-ゆっくり休みなー。-

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