第2話 いつもの生活、いつものルーティン


気がつけば自分の部屋で寝ていた。会場からも出られたようだが……王宮から出られないことに泣いてしまいそうだ。



「………最悪」



天蓋付きベッド、こんなベッドで寝たくない。豪華なベッドなのだろうし、豪華な壁紙、だが私が求めているのはこんなものではない。



「なんで私がこんなことに」












王宮での生活は悪くない。


豪華な料理やもてなしも素晴らしい。すべての時間を自由にしても良い。とても丁寧に接してくれる王様。周りの貴族の対応意外はパーフェクトだ。


でも私は帰りたくて仕方ない。


作ったドレスに身を包み、図書室に向かう。



「コホッ」



持ち出し不可の書籍をパラパラとめくる。



「まぁ見世物王女よ」

「わたくし始めて見ましたわ!なんて地味なドレスなんでしょうか?」

「きっと彼の国はドレス一つ買うのにも困窮してるのでしょう」



――――もう耐えられない。早足で図書室を出る。



「まぁ聞こえちゃったかしら」

「でも本当のことじゃない?」

「ちょっと失礼じゃなーい」



聞こえてるっての。でもそんなのどうでもいいし急いで部屋に帰って深呼吸する。



「はぁっ!……はぁはぁ………はぁ、すーはー」



この国の、この土地の空気は私には合わない。


落ち着いたし、今度はケースをもって庭園に向かう。



「失礼、こちらの庭園は現在アーデル王女殿下が茶会に使っていますが招待状はお持ちでしょうか?」


「こちらにはサンプルの回収に来ました」


「サンプ……なに?」


「おい、止めるな。彼女は王宮内なら何処に行ってもいいと勅令が出てるだろうが」


「え?じゃあ彼女が見世「失礼、お通りください」


「ありがとう、ランドル、ヨーグ」


「なんで俺達の名前を……気味が悪いな」



覚えているわけじゃない、フフッと笑みを返して庭園に入る。


中央では楽しげに話す人が見て取れるが私は目立たないように外側の作業を開始する。何処からだったかな?指示されている場所の土と葉っぱを採取する。


楽しそうな彼女たちを邪魔したいわけじゃないし、さっさとしないといけない……別の庭園に行けばよかったかな?


サンプルは多ければ多いほど良いとはよく言うがこんなことをして意味があるのだろうか?結構歩いて作業するが範囲が広くてなかなか終わらない。



「えぇいうるさい」


「―――何をしているのでしょうか?」


「えっ」



気がつけばすぐ横に人がいてピンセットを持つ私を興味深そうに見ていた。アーデル王女殿下と御令嬢達、それと従者に護衛騎士……お茶会の邪魔をしてしまったかな?



「あー、気にしないでください」


「貴様、アーデル王女殿下のお言葉に答えないか!」



騎士が鞘に手を添えて言ってきた。ヴァズ・シラード騎士ね。


あまりにも短気な行動に対して私も身構えて行動する。



「ヴァズ・シラード騎士、私はこの王によって王宮内の自由行動を保障されています」


「なっ!?なぜ私の名前を」



別に答えてもいいが、きっとこの国の人間の頭では理解できないだろう。あー、盛り上がってる盛り上がってる、うるさいよ



「土や草花のサンプルを回収していました」


「集めてどうするのですか?」



白く輝く肌、あどけない表情……彼女自身は嫌がらせなどではなく本当に気になっただけのようだ。この国の基準で考えればどう考えても不審者………いや、自国でも不審者だもんなぁ。


-これが本物の王女様-

-「愛してる」って言え-

-髪の毛採取しろ-

-ねぇどんな匂い?どんな匂いなの?-


うるせーうるせー、美人だからって湧いてるんじゃないよ。愛してるも髪の毛も私を殺す気か全く。



「私がこのくコホッ…ンンッ!この国を出るために使えるかもしれないので」


「まぁ……わたくしにも協力できることがあったら言ってくださいまし、喉が弱いとは聞き及んでおりますがお茶を飲んでいかれますか?」


「………コホッ」



王女殿下の後ろにいる人達の形相が何も言うまでもなくカエレ!と言っている。


もしここで私がYESといえばどうだろう?お茶会が目当てだったと思われるかもしれない……逆にNOと断れば王女殿下の優しさを無下にしたと言われかねない。どちらにしてもマイナスだろう。


しかもよく見るとダーノン王子殿下の婚約者であるミレーナ様までいるし、袋叩きにはあいたくない。



「コホ……ご厚意ありがとうございます。しかしこれも私の仕事ですし大変ありがたいことですが遠慮させてくださ「ちょっと!アーデル王女殿下のご厚意に対して何たる無礼でしょうか!」


「そうよ!これだから田舎の蛮族は!」

「礼儀をわきまえていませんね、品がありませんこと」

「茶など勿体ないのではなくて?」



おぉう……ここまで言われるとは………



「ということですので!ではまた!!」


「あっ……」



アーデル王女殿下の表情が曇ったが彼女はこうなるとは考えてはいなかったのだろうか?


彼女には悪い気はしたが足早にこの場を離れた。



「恥知らず」



後ろからどの令嬢かは分からないが蔑むような言葉がボソリと聞こえる。私だってこんな国には来たくなかったし、こんな事やりたくなくてもやらないといけない。


この国の反応は当然といえば当然とわかるが、それでも悪意をぶつけられて傷つかないわけではない。


今日はもうやる気が無くなってしまったので寝ることにする。

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