やさぐれた見世物悪役令嬢は追放されたい
mono-zo
第1話 王子に婚約破棄された王女
王家主催の華やかなパーティ、きらびやかなドレスに贅を凝らした料理。音楽もちゃんと楽士がいて、指揮者が偉そうなかつらを付けている。
貴族階級の多くの人が集まって酒を飲み交わし楽しそうに踊っている。腹の中では政治的なやり取りもあるのだろうがここに来て日が浅い私にはよくわからない。
私はそんな中、場違いで地味なドレスで何も食べずにただ待つ。
地味すぎて目立つドレスで衆目にさらされながら人を待つ。
「あら、今日はパーティに来てるじゃない?」
「だれのことですの?」
「あれよあれ、栄えある王家に嫁いできた見世物王女―――――……いえ、王女かもわからない蛮族の娘よ」
「まぁあれが!品がありませんこと!」
―――――聞こえてるっての
今日のパーティ、出たくて出たわけじゃない。そもそも私はパーティなんかに興味はない。興味があるのは………あ、きたきた。
パーティのど真ん中に現れた彼ら、探しているのは私だろう。会場の中央に向かって堂々と歩く。
「ルイス殿、でしたかな?」
「はい、お待ちしていました」
金の髪に青い瞳の第5王子、私よりも背丈はあって美丈夫と言えるだろう。後ろに控えるのは彼の婚約者、無言だがにっこり敵意は伝わってくる。彼女の後ろには彼女の親族がチラホラと見て取れる。
「そうですか……大変言いにくいのですが、貴女との婚約を破棄していただきたいのです」
婚約の破棄をパーティでするなんて、この国の常識であっても尋常ではない。なぜなら婚約の『破棄』は既に婚約が一度成立していてるものでそれを破棄するというのは醜聞になりかねない。
婚約の破棄は両家の事情で行われることはあるにはあるが他の貴族の貴族が集まる場で、それも公の場、しかも最も人が多いとわかっているパーティで婚約破棄を言い渡すことなんて醜聞も醜聞、一度婚約した相手と家を最大限侮辱する行為だ。
その場で決闘することもあるが裁判や賠償、領地間での戦争にもなりかねないし、数代後にまで禍根を残しかねないし主催のメンツも潰しかねない、貴族として最低最悪の禁忌である。
相手をできる限る侮辱し、貶める。人としても最悪の行為だ。
―――――だが例外もある。
相手や相手の家に最大限の侮辱がしたい場合もあるが、二度と関わらないし戦争も辞さないという決意の表明にも使える。
若気の至りや酒のせいで言ってしまう場合もあるがこの場合は別だ。
彼には彼を支援する後援者がいて、後援者は彼に新たな婚約者が生まれることを良しとしない。
私を侮辱し、戦争も辞さないという……他の貴族と後援者の前で行う決裂の表明。
普通のお嬢様であれば傷ついて泣いちゃうかもしれない。悲しんで、立ち直れないかもしれない。
だけど私は・・・
「ありがとう!ありがとうございます!!」
さいっこうにうれしい!!!
「え?あ?あぁ……」
「これで帰れるかもしれません!いやーほんとありがとうございます!ほんっと感謝感謝!!あ、婚約者さんとお幸せにね!皆さん拍手拍手!!!」
凍りついた空気は彼女の親族からパチパチとためらいがちな拍手の音が聞こえて溶けた。
周りの貴族たちの蔑んだ目は気持ち悪くて仕方ないがそんなことより心が沸き立って仕方ない、やっと、やっとだ!!
「じゃー!私もコホッ帰りたいんで!それじゃあ!二度と会うこともないでしょうが!御機嫌よう!!」
「………」
王様の座る位置にお辞儀をして、スキップしてしまいそうな足を抑えて戸惑ってる貴族たちの前を歩いて出ようと……顔の筋肉が緩むのを自覚しながら退場する。
王様も少し戸惑っているのが見て取れるが、これは私の希望でもある。
ドンっ
「いたっ?!」
入り口に見えない壁が張られ、会場から出られない。
顔から見えないなにかにぶつかった。
「っ!!」
ドン!ドンドン!!
思い切り見えない壁を拳で叩きつけて、出られない自分にどうしようもなく涙が出る。
吐き気がして、胃がきゅっと痛む。この機会を逃せば次はいつになる?数年はこの王宮に閉じ込められてしまう。
「クソがァァァ!!!出せよ!!帰りてぇんだよくっそ!!!ファッキュー!!死ね!!死ね!!!カス!カァス!!カァァァスっっっ!!!!!!うぐっ」
最悪だ、最悪最悪最悪!!!
怒りが止まらず、外聞も建前もなく切れ散らかしてしまい、酸欠か何かでクラリと落ちてしまった。
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