第2話 ドリブル & パス
「ところでどうやって助けるんだ? どう見てもオレただのユニフォームなんだが……」
「そのユニフォーム、最高だ!」
「いや違う、そうじゃない。相棒、それチームの応援のヤツ。マジメな話、跳ぶにも高いし、戦ったりなんてできないだろ。……あの大きいのも、なんかゲームの敵キャラみたいだ」
「もう状況を
「じゃなくて……」
やっぱり一度壊れて、相棒はおかしくなったんじゃないだろうか?
勢いまかせに助けを求める声に向かって駆けだしたのはいいけれど、どうやったら良いかなんてさっぱり分からない。
すごいぞ、
ひとまず冷静になり、正面はおっかないから、背後に回ろうとスピードを上げる。
するとゴーレムもその場で向きを回転させて、正面をキープした。ディフェンダーみたいだななんて考える位には頭は冷静だ。
「たすけて―!」
何度目かの悲鳴。無理もないけど、慌てているのが伝わってくる。
オレはその助けを求めるだけの声が、なぜか腹立たしく感じた。
中一でレギュラーを掴むには、誰かを頼ってばかりではいられなかったからなのか、先輩達にも胸を張って意見をしていたからなのか。何よりも、チームプレーが好きだったから、この状況の打破に協力してほしいだけなのか。
オレは叫んだ。
「ねぇ! どうやったら助かりそうか君も考えて! 助けたいけど、オレこんなデカいの見たことないんだ!」
「え? え?」
「そう! 君だよ!」
ぐるぐるとゴーレムの周りを走り続ける。レンズがじっとこちらを追い続けるが、まだ何もしてこない。これ以上近づいたら攻撃してくるなんていうのが、オレの知っているゴーレムだけど……。
「このデカいの、どうすればいい?」
「こここここれは、いいいれ、イレギュラーゴーレムですぅ! 多分あなたがいるからぁ」
振動で声までガタガタだ。けど、なんとか聞き取れる。
「オレが!? 居なくなった方がいい?」
「ちちち違いますー! 行かないでくださぁい!」
「止めたりできないの?!」
「わたしの下に起動陣があるんですがぁぁ、わたしのマナじゃ足りなくて止められなくてぇー」
「マナ? 書いてあるなら消せないの?」
「無理ですー」
助けを求めるその声が、泣いているような声にだんだん変わってきた。
どうする……。
「トウゴ! やるぞ!」
「何かあるのか?」
大丈夫だと相棒は応えた。
「
瞬間、オレのリストバンドが光り、ポンとそこからボールが現れた。慌てて掴んで、思わず足を止める。ボールは向こう側が見える位に透きとおっているが、重さも感触もよく知っているバスケットボールの物だった。
「なんか見たことあるな……」
「それは多分、かの有名なサッカーボールの飛び出す発明だろう。残念ながらベルトはないから、リストバンドで演出だ」
いや、そうだけど。なんだか怖いこと言い出した。
もしかして相棒、オレの好きなテレビやゲーム、……家族にも隠してあるあのマンガまで把握しているんじゃないだろうか。
「私が分かるのは、ここに
なんだか都合良く行き過ぎな気もする。けど、いきなり知らない場所に飛ばされて、壊れていた相棒が直った上に喋っているのは現実だ。
「わかった!」
オレはボールを掴んだまま、走り出す。でも、数歩踏み込んだ途端、ビタリ足が地面に吸い付き、ボールが消えた。聞き慣れたホイッスルの音が足元のバッシュから鳴る。
「トラベリング!」
「なっ、お前本当はまだ壊れてんじゃないのか!? そんなこと言ってる場合か!」
「ダメだトウゴ! キミが私を身に着ける時、君はバスケットマンだ!」
「でも――」
ゴーレムがこちらに何かを感じ取ったのか、一歩踏み出した。
オレの足も動くようになり、慌てて離れる。トラベリングと相棒は言った。反則は一定時間動けなくなるのかも知れない。
「それにだトウゴ、私の出したボールや能力は、そのルールに則って強化される」
「……それ最近のマンガなんかでは、制約とか呪いって言わない?」
「そのルールに則って強化される」
「……こいつとバスケしろと」
「そうだ。助けるには、バスケしかない」
そんな馬鹿な。
呆れてポカンとしてしまいそうになる。けど、ズンという足音に我に返る。
このままだとオレまで潰されてしまいそうだ。やるしかない。
「相棒、もう一回だ」
「それでこそトウゴだ」
再びリンクと声が聞こえた後にリストバンドが光り、ボールが出現する。
ゴーレムとの距離を確認し、相棒に声を掛けた。
「ここ、屋外コートでもないけど大丈夫なのか?」
「問題ない。トウゴと私が一緒なら、進む先がコートになる」
なにそれカッコイイ。ちょっとウズウズするけど、声には出さない。
「ドリブルするほどマナが大きくなるのか?」
「そうだ。バイオレーションに気を付けろ」
「何秒?」
「屋外フリーコート。二十四秒ルールだけだ」
「わかった。よし、スタートだ!」
高ぶる気持ちを抑えきれず、思わず掛け声が出た。
小刻みにドリブルをしながらゴーレムに近づく。オレの身長は百六十一センチ。中一だからまだ伸びるかも知れないが、バスケには小さい。
それでも、ドリブル突破からの得点力でレギュラーを勝ち取った。
試合においての状況判断は得意な方だ。大吾先輩が引退した次はポイントガードとも言われていたんだから。
ゲームやマンガみたいな世界でも、ここがコートというのなら、オレは動ける!
ゴーレムは大きいが、遅い。相棒を履いてイメージ通りに動ける今なら、捉えられることはないはずだ。予想していた通り、ゴーレムは近づいたら腕を振ってきた。後退して避ける。
また女の子の悲鳴が聞こえた。
ゴーレムは二階建ての家くらいには高さがある。自分一人では絶対に到達できないとオレは分かっていた。バイオレーション、オレがボールを持ち続けられる時間。
それまでにあの子に協力してもらわないと……。
「ねぇ! 怖いかも知れないど、手伝ってほしいんだ!」
「どどど、どうやってですか?!」
「このボール、分かる?」
「は、はい!」
「これをパスするから、キャッチしてそのマナ? で、ゴーレムを止めてほしい! 頼むよ!」
「え? え?」
返事は聞かない。他に選択肢はないから。
真っすぐではなく、
もう時間がない。けど、切り込んでいった先に攻撃され、腕をジャンプして避けても、ボールを掴んでしまう。そしたらもう投げるしかない。
「ダブルドリブルをおまけで見逃すとかは?」
「なにを言っている! いかなる時もスポーツマンシップだ!」
「ですよねぇ。なら行くしかないな」
「トウゴなら出来る! そのユニフォーム、最高だ!」
何度目かも分からないエールを受けながら、オレはまっすぐに切り込んだ。
体勢を低くして、速度を上げる。この体格差じゃ、遅くても腕を振られる前に肉薄するのは無理だ。
なら、振られるタイミングでジャンプで腕を避けながらパスする!
ゴーレムの単眼がこちらを見つめている。表情はない。ただ、腕を振る動作の時は人間と同じで肩から動く。
集中できている。ゴーレムの動きがさらにゆっくりに感じられた。片足で踏み切りジャンプ。背面で腕を避けながら、彼女にボールを放った。
「パス! 頼む!」
ボールはまっすぐに、彼女に向かって飛んだ。
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