第20話 凛々しく可愛い会長は僕をパシらせる
中に入ると既に生徒会のメンバーが各々与えられたポジションについて作業を進めていた。
床に広げられた大きな布には、文化祭のスローガンがドーンと書かれている。
『百花繚乱~伝統よし! 文化よし! 青春よ~し!』
うん、まぁ良くも悪くもうちの高校の校風を表したものに落ち着いた感じはする。
真面目路線を貫く
「
「そこまでこちらも急いでないから大丈夫よ」
入口付近であかりと花宮が何やら話をしている。
内容を聞くに察すると、買い出しの二人が戻ってきた感じだろうか。
一応俺も実行委員兼朝霧さんの恋応援し隊のメンバーとしてあかりについていくべきか、二人のもとに歩み寄る。
「俺も行った方がいいか?」
「あーあんたはいてもいなくても変わんないから、残ってていいわよ」
「そうでっか……」
戦力外通告早すぎるだろ……。
あかりは俺に目もくれず、「行ってきます」とすぐにその場を去って行く。
花宮は残された俺に少し同情するような視線を送ってきた。
「安心して、小森君にはいっぱい仕事用意してあげるから」
「……い、いらねーよ」
遠慮しますと俺は悪魔的なことを言う花宮から逃げるように、教室の中に戻っていく。
さて、周りがペンキ塗りに勤しんでいるし、俺も空いてるところで手伝うとするか。まずは道具箱から
「何かお探しですか?」
背後から声をかけられ振り向くと、そこには何やら棒状のお菓子をポリポリと食べている大森がいた。
「ん? いや刷毛探してるんだけど、てかお前は何してんの?」
「見ての通り、ポッキー食べてます」
「いや、それは分かるんだけど、先輩含めてみんな作業してんのにサボるなよ……」
「失礼ですね、私だってこう見えて働いてるんですよ! それにポッキー食べないとやる気出ないんで」
そう言って大森はもう1本口にくわえる。
ポッキー食わないと頑張れないとかお前はどこの霊獣使いの神〇ちゃんだよ。
「そういえば先輩ってあかり先輩とも仲いいんですね」
「そうか?」
1本どうぞと大森は箱の開け口を俺の方に向けてくる。
「そうですよ~最近よく二人で行動されてるじゃないですか。実行委員も一緒にやってますし」
「まぁその辺は色々あるからな。それに、あいつとは去年から同じクラスだし、それで自然と喋る機会が多いんだよ」
「へぇ、そうなんですね。それにしてもあれですよね、先輩って意外と女の子の友達多いですよね」
「意外ってなんだ意外って」
この手の話は
ラノベのぼっち系主人公ならともかく、普通の男子高校生なら誰でも一人や二人、仲のいい異性の友人ぐらいいるだろ。
「なにを話しているのかしら?」
俺と大森が雑談をしていると、花宮がこちらにやって来た。
やっべ、サボってるって思われたか? めんどくさくなる前に俺は刷毛を手に取り、仕事しますアピールをして見せる。
「あ、あまちゃん! いや~小森先輩って女の子の友達多いですよね~って話してたんですよ。そういえばあまちゃんってあんまり男の子と話さないけど、小森先輩とは仲いいよね?」
「え? まぁ……そうね」
「え、何その微妙な反応」
何やら歯切れの悪い花宮に、俺は思わず突っ込んでしまう。
「別になんでもないわ。それに私、小森君のことそこまで異性として意識していないもの」
「まぁ、そもそもお前は俺のこと人として見てるのかすら怪しいもんな」
「あら、そんなことないわよ。少なくとも話が通じるお猿さんくらいには思ってるわ」
「うきぃぃぃ!!! ってばっか誰が猿だよ」
一瞬なんで俺が毎朝バナナ食ってること知ってんだよとか意味わからないこじつけしそうになったじゃねぇか。
「……ぷっ、やっぱり仲いいじゃないですか……」
俺と花宮のやり取りを見て、大森は必死に笑いを堪えていた。
そんな3人の所に気の引けた様子で女子生徒が近づいてくる。
「あの……花宮さん、今大丈夫ですか?」
「えぇ、どうしたの?」
「その白のペンキがもう少しで無くなりそうなんですけど……」
「分かったわ。美術室にまだ余っているはずだから、取ってくるわね」
「あ、はい。お願いします……」
そう言うと女子生徒はぺこりと頭を下げ、作業に戻る。
まぁ、大体この後の展開は予想できるんだが、といったところで花宮が俺の方を見る。
「小森君お願いしてもいいかしら?」
「へいへい、ちょうど飲み物欲しかったし、ついでに行ってくるよ」
俺は花宮からペンキの入った缶を受け取ると、そのまま多目的室のドアに向かう。
「あ、小森君」
「ん?」
俺は後ろを振り返り、花宮に返事をする。
「その――」
「言われなくてもわかってるよ。道草くわずにすぐ戻ってくるから、安心しろ」
たく、本当にあいつは俺のこと信用してないんだから。
ここいらでパパっと仕事をこなしてお猿さんから原人ぐらいに進化させてもらうか。
そんな俺の人としての成長に感銘を受けたのかは知らないが、花宮は遮られた言葉の続きをどうしても伝えたいのか、俺を再び呼び止める。
「その……私、『午後のミルクティー』で」
「そっちかよ……」
こうして俺の位がお猿さんからパシリに昇格した。もはや降格して、底だろこれ。
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