第19話 陽気で可愛い同級生は恋愛大作戦を企てる
文化祭を2週間前に控えた午後の授業。
HRの時間を使って、クラスでは出し物についての話し合いが行われていた。
〇お化け屋敷
〇屋台
〇演劇
などの候補が挙がり、最終的に多数決の末、屋台に決まった。
まぁ妥当な結果だな。
「はい、じゃあ次は実行委員を決めたいんだけど、誰かやりたい人いない?」
クラスの委員長を務めるあかりが声をかけるも、誰も名乗り出る気配がない。
うん、これも想定内。
といったところで俺はあかりの言葉を思い出す。
『いい? ちょうど文化祭もあるんだし、この機会を逃す手はないわ。題して、
『またベタな作戦名だな……』
俺が小さく呟いたのが聞こえたのか、あかりは俺をギロリと睨みつける。
『うるさい。こういうのはシンプルイズベストなの』
『へいへい……それで、具体的になにするんだ? 文化祭で
俺がそう言うと、あかりはニヤリと笑みを浮かべる。
『わかってるじゃん。でも、それはステップ2よ。まずは二人の距離を縮めないとね。そこで、次のHRなんだけど――』
「えっと、私やってもいいかな……?」
そう言って控えめに手を挙げたのは朝霧さんだった。
まさかの立候補者にクラスがざわつく。
「もえ~ありがと~! 一緒にがんばろ! じゃあ、あと男子も欲しいんだけど……誰かいないかなー?」
クラス全体を見渡すあかりの視線が俺を捉えた。
早くしろ、と言わんばかりの鋭い視線に俺は小さくため息をつく。
「……俺でよければ」
「慧……? ほんと!? めっちゃ助かる~」
なんだこの茶番……。
『もえが手を挙げたら、すぐあんたも名乗り出なさい。そうしないと他の男子が立候補しちゃうから。できるだけ周りが遠慮するように仕向けるのよ』
『ねぇ、なんで俺が手を挙げたら、周りが黙ること確定してんの? え、俺って知らないうちにクラスで嫌われてたの? おかしくない?』
そんな悲しい話があってたまるか。
俺は
すると、俺と目が合ったそいつは小さく肩をすくめると、「まぁ頑張れよ」とでも言いたげな表情で親指を立てた。
そしてあかりの計画通り、俺が手を挙げると周りのクラスメイトたちは途端に大人しくなる。……泣いてもいいですか。
今すぐ枕を濡らして引きこもりたいところだが、これも朝霧さんの為だと自分に言い聞かせ気持ちを切り替える。
「これで3人決定ね! あと男子1人なんだけど……
「え? 俺!? え~どうしよっかな~」
あかりが名前を呼ぶと、穂高の隣に座っているイケメンがわざとらしく悩む素振りを見せる。
そう、こいつが朝霧さんが惚れているであろう人物、桐谷君である。
クラスでもトップカーストに位置するぐらい目立つ存在で、顔もよく、女子受けもよく、スポーツ万能とこれまた三拍子揃ったスーパーリア充様だ。唯一の欠点は俺とさほど身長が変わらないことぐらいか。
「あんたこういうイベントごと好きじゃん」
「確かに嫌いじゃないけどさー、でも、部活がなぁ……」
「大丈夫大丈夫! そんな毎日残れなんて言わないから! 部活優先でちょっと手伝ってくれたらいいから!」
「う~ん……そこまで言われたらなぁ……まっ、あかりの頼みだし引き受けるよ」
桐谷は爽やかな笑顔を見せ、快く承諾した。
「ありがと! 颯真ならそう言ってくれると思ってた!」
あかりは満足気に微笑むと、黒板に実行委員の名前を書いていく。
「じゃあ、実行委員はあたし、もえ、慧、颯真の4人で決まり! 準備は明日から始める予定だからみんなよろしくね!」
こうして、朝霧さんの恋愛大作戦はあかりプロデュースのもと、文化祭当日に向けて動き出した。
***
放課後。
教室には俺ら実行委員4人と数人の生徒が残っていた。
「それにしても、小森が実行委員やるなんて意外だな」
「まぁ……成り行きで」
普段そこまで接点のない桐谷に話しかけられ、俺はぎこちない返事をしてしまう。
すると、あかりが俺たちの間に割って入る。
「颯真は今日どれくらい残れそう?」
「んー、5時ぐらいまではいけると思う」
「りょーかい。実はこれから文化祭の委員会があるんだけど、そっちは生徒会組であたしと慧が参加するから、もえと颯真の二人には買い出しに行ってきて欲しいんだよね」
「ふーん、わかった。ちなみに何買って来たらいいんだ?」
「とりあえず、必要なものリスト作ったから見て」
そう言ってあかりは小さく折られたメモを手渡す。
そこには、絵具、画用紙、段ボールなど内装、外装に使えそうな物品がびっしりと書かれていた。
「うっわ、結構多いんだな。俺、あんまりこういう小物系とかどこで買えばいいか知らないんだよな……」
「そこは心配しなくていいよ。もえがいるし、ねっ?」
あかりがウインクすると、朝霧さんも小さく微笑んでみせる。
「う、うん。任せて。私、よく買いに行くから」
「おぉ、頼もしいな。じゃあ、俺は荷物持ちとかに徹しようかな」
「じゃあ任せた! お金はさっき藤川先生から預かってきたからこれ使って」
あかりは5000円札が入った封筒を取り出すと、桐谷に預ける。
「了解。じゃあ行こっか、朝霧」
「あ、うん!」
二人はそのまま教室を出ていった。
あかりは二人の背中が見えなくなると、俺の方を振り返り、ニコッと笑みを浮かべる。
「……なにそのドヤ顔」
「いや、なんか青春してるなぁって思って」
「さようで。てか、ガンガン行かせ過ぎじゃね? 朝霧さん、めっさ緊張してたぞ」
「いいのいいの。もえはあれぐらい強引に背中押してあげないと、自分から動けないから」
「……まぁほどほどにしといてやれよ」
「分かってるわよ。それより、こっちもそろそろ行こっか」
そう言うとあかりは自分の鞄を持って、教室を後にする。
俺も彼女の後に続いて廊下に出た。
渡り廊下を歩きながら、俺は前にいるあかりにふと疑問を投げかける。
「お前、なんか焦ってる?」
俺の言葉に彼女は立ち止まり、振り返る。
その表情はいつもの彼女のようで、それでもどこか違うように感じた。
「……別に、普通だけど?」
「……ならいいけど」
「なにそれ、急に変なこと言うじゃん。あれだよ、あたしにとってもえは大事な親友だからさ、うまくいって欲しいなって思っただけ。あの子これが初恋だから」
そう言ってあかりは再び前を向いて歩く。
俺もそれ以上は何も聞くことはせず、ただ黙って彼女について行った。
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