第18話 陽気で可愛い同級生は親友の恋を手助けしたい
「なぁ、不良少年。私の授業はそんなにつまらないか?」
俺を教卓の前に呼びつけた
「いや、そういうわけでは……ていうか、この前の課題テスト文系3位、令和の
自慢まじりの言い訳で俺の勤勉さをアピールするも、先生は呆れたようにやれやれとこめかみ辺りを押さえる。
「なにが二宮金次郎だ。教科書を読んでいるならまだしも君が読んでいるのはライトノベルではないか。いつから古典の教材は若年層向けの娯楽小説に変わったんだ?」
「それは……ほ、ほらあれですよ!
「屁理屈を言うな。それに平安貴族は結婚するまで純潔を守り通した清らかで神聖な存在なんだぞ。いくらフィクションとはいえ、そういった小説と同じ扱いをするんじゃない」
「えー……でも平安時代って結構乱れてましたよね? 俺が読んだ書物によると、天皇は毎日のように女を抱きまくっていたとかなんとか――」
それにしてもいつの時代でもエ〇要素は偉大なんだな。
最近の小説投稿サイトもランキングはハーレムとかビッチ、N〇Rといった単語の入った作品が上位を占めてるし。あの辺って書籍化するときどうなってんのかね。
そんな頭のよさそうで悪い会話を繰り広げながら、なんとか話を逸らそうと試みるも、先生の鋭い視線がそれを許してくれない。
「はぁ……最近生徒会に入って少しは真面目になったかと思ったが、その腐った根性は全く変わってないようだな」
「人間そう簡単に変われたら苦労しませんよ」
「開き直るな。とにかく、このライトノベルは没収する。返してほしければ1週間の間、しっかりと勉学に励むんだな」
くっ、やはりそうきたか。
これは予想できた展開ではあるが、しかしここで引き下がるわけにはいかない。
「ちょ、待ってくださいよ! これ俺の唯一の心の拠り所なんですよ!」
「知らん。授業中に読む方が悪い。自業自得だ」
「そこを何とか!」
「うるさい。これ以上騒ぐなら、私の鉄拳制裁で黙らせるぞ」
「……うぐぅ」
ハァ……と拳を温めるように息を吹きかける藤川先生。
その表情は真剣そのもので、とても冗談を言っているようには見えなかった。
この人、マジでやる気だ……。
俺は観念するように両手を挙げ、降参の意を示す。
「すみませんでした。これからはより一層勉強に励みたいと思います……」
「よろしい。ではこの話は終わりだ」
そう言い残し先生は教室から出て行った。
結局、ライトノベルは返ってこず、昼休みも15分ほど説教を食らう羽目になってしまった。何の成果も得られませんでした! とはまさにこのことだな。
たまにはボッチ飯も悪くないか……。
「なんであんた一人でお弁当食べてるの?」
ハンバーグを割ったところで声を掛けられ、顔を上げると、コーヒー牛乳とサンドウィッチを持ったあかりが不思議そうに俺を見下ろしていた。その隣にはいつもあかりと一緒にいる、えっと……
どうやら二人とも購買から戻ってきたところらしい。
「ちょっと先生に呼ばれて色々あってな」
「あ~なるほどね。相変わらずバカやってるみたいで安心したわ」
「ほっとけ」
「まぁいいや。……あ、そうだ。ちょうど
「相談? 俺に?」
「そ、あんたに」
「それは別にいいけど……」
俺が承諾すると、あかりは嬉しそうな笑みを浮かべ、俺の隣の席に腰を下ろす。
「もえもその辺の席に座りなよ」
「う、うん。わかった……」
朝霧は小さく頷き、言われた通り俺たちの向かい側の椅子に座る。
ボッチ飯からまさかの女子とのランチタイム。
人生は何が起こるかわからないものだ……って違う違う。
「おいまて、相談を受けるとは言ったけど一緒にご飯を食べるとまでは言ってないんだが」
「いいじゃん、ちょうどあんたもぼっちなんだし、食べながら聞いてよ」
「いや……そうは言うけどな……」
さっきからクラスメイトの視線がちょー痛い。特に男子の。
なんなら一人にでもなった瞬間、黒ずくめの集団に捕まって異端審問会にかけられるレベルで殺意を向けられている気がする。
まぁ、クラスでも人気のある女子二人が俺なんかと食事をとっているのだから無理もないが……。
「あかりはともかく、朝霧と俺ってそんな喋ったことないし、気まずいだろ。相談なら生徒会の時にでも聞くぞ?」
「気にしないで。それに話があるのはあたしじゃなくてもえだから」
「は?」
「ふぇ!?」
俺が顔を向けるのと同時に、唐突に話を振られた朝霧は驚きの声をあげ、顔を赤く染める。
「いや……でも……」
「大丈夫だって。慧はこう見えてズバッと正論で答えてくれるし、あと交友関係もあんまり広くないから、話が漏れる心配は少ないと思うよ」
「そこは優しいとか頼りがいがあるとかじゃないの? なんでちょっとけなされてるの? なにも褒められてるきがしねぇ……」
「え、でも事実だし?」
「……さいですか」
もう好きにしてくれ。
俺がため息まじりに箸を進めると、朝霧は恐る恐ると口を開いた。
「あの……迷惑だったらその……」
「いや、まぁ……俺でよければ話は聞くけど……」
力になれるか分からないが、と付け足すと、彼女はほんの少しだけ表情を和らげた。
そして、小さく息を吐いて話し出す。
「じ、実は私……好きな人がいて……その、どうしたら振り向いてもらえるのかなって思って……」
「はー……えっと、ちなみに相手の名前とかって」
「……同じクラスの……
なるほど。これはあれだな。
恋愛相談だな。
「その……あかりちゃんに相談したら、小森君がこういう恋愛相談乗るの得意って聞いたから」
なんか知らないところで俺の嘘の情報が流されてるんだが……確かに、現在約一名の相談というか手助けはしてるけども。
「おい、俺はいつから恋愛アドバイザーに就任したんだよ……てか今まで彼女できたことないし、お前も知ってるだろ」
サンドウィッチを頬張るあかりにジト目を向けつつ、俺は朝霧の方に向き直り、「悪いけど、そういう話はあまり役に立てそうにないな」と、率直に告げる。
すると、朝霧は驚いたように目を見開き、慌てたように首を横に振る。
「あ、全然大丈夫……! いきなりこんな話されても困っちゃうよね。私の方こそ、変なこと頼んでごめん……」
「いや、別に謝る必要はないけど……それに相談は乗れないけど手伝うことはできるし」
「え?」
朝霧はキョトンとした様子で聞き返してきた。
俺はあかりの方を一睨みする。
「元から俺にアドバイスなんて期待してなかっただろ」
「あれ、バレた? まぁ、でもこういう時に男手があると、情報収集だったり、男性側の意見を聞けたりで助かるのよ。だから、もえの為にも手伝って?」
「ったく……」
あかりのお願いに呆れつつも、こうして頼まれてしまうと断わりづらい。あと、そのウインクやめろ。
「それで……俺は何をすればいいわけ?」
「とりあえず、あたしに一ついい案があるんだけど――」
そう言ってあかりは最後の一つとなったサンドウィッチを口に放り込み、指についたソースをぺろりと舐めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます