なんだかんだ文化祭は準備期間が1番楽しかったりする
第17話 爽やかイケメンの幼馴染は非リアの敵である
まだ陽も昇りきっていない早朝、『地獄坂』と呼ばれる急な坂道を、息を切らして上る一人の少年がいました。
自転車を漕ぐ度に身体が上下に揺れ、くせ毛かはたまた寝癖かボサボサの髪の毛がぴょんぴょんと跳ねています。
昨夜遅くまで漫画を読んでいたせいか目元にはうっすらクマが出来ており、とても健康的とは言えない様相です。
さて、こんな朝早くから汗水垂らし必死になって自転車を走らせている冴えない少年は誰でしょう。
そう、俺です☆
***
生徒会役員の朝は早い。
というか俺の朝が早い。
生徒会に所属して半月ほどが経ち、俺も雑用係から正式にとある役員へとジョブチェンジをした。
それが『風紀部長』である。
風紀委員とは文字通り、学校内の風紀を取り仕切る役職であり、校内における校則違反者の取り締まりや、頭髪・服装のチェックなどが主な仕事となる。
いわば、学校で1番煙たがられる存在だ。
加えて、そんな委員会の部長ともなればその責務も当然のように重く圧し掛かってくるわけで……。
今まで風紀を乱してる側にいた俺にとって、それはまさに
てか、本当にやりたくない。頭髪とか好きにさせてやれよって感じだし、携帯電話の持ち込みは可能なのに使用は不可とか意味わからん校則は即刻廃止すべきだと思う。
あ、女子がスカートの下にジャージ履くの禁止には大いに賛成です。
果たして、こんなちゃらんぽらんな人間が風紀部長なんて務めていいのだろうか……。
ただ、俺も別に自分からやりたいと立候補したわけではない。
うちの生徒会のいい加減さはもはやご存じの通りで、委員会の部長はそんな生徒会の中でテキトーに選ばれる。適当とは『ふさわしい』という意味もあるが、この場合はもちろん、『いい加減』の方である。
だって俺がトイレから帰ってきたら名前書いてあったからね。
風紀部長→
もはや押し付け合いの土俵にすら立たせてもらえなかった。
何が「会長権限です」だよ。強すぎだろそのカード、早く制限しろ。
そもそも理由も理由で、風紀委員は挨拶活動という名目で朝早くから校門に立ち、登校してくる生徒達へ声掛けを行うといった活動がある。
これが相当嫌だったらしい。
女の子は朝大変なんだから! って5人ぐらいからダイレクトアタックされて、俺もガクッとうなだれるしかなかった。なんなら最後に「ガッチャ! 楽しいデュ〇ルだったぜ!」とか言ってきそうなぐらい喜んでた。一方的に殴っといてよく言うよな。
学校の風紀や規律を守りたいなら、まずはこの腐った組織から変えるべきだと思いました。まる。
そんなこんなで今日もまた、こうして朝の7時半から学校に来てるわけだが――
俺は駐輪場に自転車を止めて、校門に戻るため来た道を引き返す。
そのさなか、自販機が並んでいる昇降口前に見知った顔がいた。
着崩されたカッターシャツはだらしなさより、どこか色気を感じさせ、風に靡く赤茶髪が爽やかな印象を与えてくるイケメン男子。
そいつの名は
2年生ながらサッカー部のエースにして、校内男子ミスターコンがあれば確実にトップを取れるであろう人気者、そして隠す必要もないが俺の幼馴染でもある。
まぁ幼馴染と言っても、ここ2年くらいはまともに会話した記憶がないんだけど。
ただ、最近は
そんな彼と目が合うと、向こうもこちらに気付いたのか軽く手を挙げて合図を送ってきた。
俺もそれに応えるように片手を挙げる。
「よっ」
「うい。朝練か?」
まだ時間には余裕があったので俺は段差を上がり、彼と同じ目線に立つ。
「ああ、来週から大会が始まるからな。少しでも練習しようと思ってさ」
「相変わらずサッカー馬鹿やってんな」
「まぁな。それよりお前こそこんな早くに来るなんて珍しいな。バスケ部に戻ったのか?」
「んなわけ。生徒会入ったからそれの仕事」
「あー……なるほどな。それでか」
もう少し驚かれるかと思ったが、逆の立場なら多分俺も似たような反応するだろうし、興味ない奴にとってはどうでもいい話か。
ならもう少し踏み込んだ話題でも提供してやろう。
「そういや今日誕生日だったな」
「おっ、覚えてくれてたのか? 嬉しいねぇ~」
「まぁ、他に覚えるほど人の誕生日知らねーからな」
というか大森から聞いてなかったら普通に忘れてたと思う。
なんならこいつの場合、俺が忘れてようとも他大勢から祝われるだろうし、もうすでに聞き飽きてる可能性すらある。非リアの敵め。
「ジュース奢ってやるよ」
お祝いの言葉はくれてやらんが、飲み物ぐらいは買ってやろうとポケットを漁る。
こうやって、こいつの誕生日に何かするのはいつぶりだろうか。それこそ小さい頃は家族ぐるみでケーキ食ってたりしてたけど。
「まじで? やったね!」
特に遠慮する様子もなく、素直に喜んでくれる辺りやっぱり男同士は楽で助かる。
「アクエリでいいか?」
「なんでもいいよ」
その言葉を肯定と受け取った俺は、ボタンを押し、出てきたペットボトルを青葉に手渡す。
「ほれ」
「さんきゅ!」
「お返しは倍で頼むわ」
「いや、お前誕生日過ぎてんじゃん」
冗談交じりに軽口を叩くと、いつもの調子で返してくれる。
なんか懐かしいな……。この感じ。
昔はもっとこう、仲良かった気がするんだが……。
今となっては、こうして隣にいることすら違和感を覚えてしまう。
きっとそれは、青葉の方も同じなんだろうな。
お互い言葉には出さないけれど、なんとなくそんな雰囲気を感じた。
そんな微妙な空気の中、青葉はアクエリを一口飲み、キャップを閉じる。
「じゃあ、俺そろそろ行こうかな」
「おけ。あ、そうだ最後に一つ聞きたいことあるんだけど、お前って今彼女とかいんの?」
ふと、大森のことが頭を過り、なんとなしに訊いてみた。
別に深い意味はない。ただ、ちょっと気になっただけ。
青葉も青葉で特に恥ずかしがることもなく、慣れた口調で答えてくれる。
「なんだ急に? 別にいないけど」
「へぇ、意外だな。昔からモテるのに」
「俺だって誰でもいいわけじゃないからな。それに今は部活で忙しいし、そんな暇ないよ」
「そっか。そりゃ残念だ。んじゃまたな」
「おう! 今度は
そう言い残して、青葉はグラウンドへと向かっていった。
俺はその姿が見えなくなるまで見送り、踵を返す。
恋愛より部活の方が優先とは如何にもあいつらしい。
とはいっても作ろうと思えばすぐ出来るだろうし、そもそも作らない方がいろんな女の子と遊べていいのかもしれない。あーやっぱりあいつは非リアの敵だわ、知らんけど。
まぁ、本人の言う通りならあいつにとっては険しい道のりだが、とりあえず第一関門は突破できそうかな。放課後、話を聞くのが楽しみだ。
さて、とりあえず仕事しに行きますか。
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