第7話 あざと可愛い後輩はお姉ちゃんを演じてみせる

「先輩、好きなの選んでください」


 そう言って大森に連れてこられたのは、これまたポップで可愛らしいアイスクリーム屋さんだった。カラフルで派手な装飾は、いかにも女子高生が好きそうな感じがする。


「てかまた甘い物食うのか?」

「スイーツは別腹ですよ!」

「いや、パンケーキもそっち側だろ」


 女の子の別腹って四次元ポケットなの? それともブラックホール?

 大森に勧められるがままメニュー表を見ると、そこには様々なフレーバーがずらっと並んでいる。流石都会クオリティーと言わざるを得ないゴージャスさと、それに伴っての値段の高さに思わず目眩めまいがする。


 俺が頭を抱えていると、大森は俺の顔色を見て察してくれたのか、「大丈夫です、今回は私が奢りますから!」と親指を立てる。いや、せめてサーティワンとかにしてくれたらまだ俺も頼みやすいんだけどな……。


「……じゃ、バニラで」

「うわー、なんか先輩ぽいですね」


 うわーってなんだうわーって。バニラいいだろ。王道に勝るものなしだぞ。

 ラノベのヒロインだって黒髪清楚で巨乳の幼馴染が一番……これは俺の好みか。


「じゃあ私はチョコミントで」


 注文を終えると、大森は財布からお金を出し、支払いを済ませる。

 そして、アイスを受け取ると俺のところに戻ってきた。


「はい先輩」


 大森は俺にバニラアイスを差し出し、それを素直に受け取る。


「さんきゅ」

「いえいえ~。どうします? 端っことかでゆっくり食べます?」

「だな」


 俺たちは店の外に設置されているベンチに向けて歩き出す。

 そしてベンチに腰掛けようと着いたところで、突然死角の路地から小さな女の子が飛び出してきた。女の子は勢いよく大森に向かって飛び込んできて、抱き着くような格好になる。


「きゃっ!?」

「あぶな……!!」


 俺は咄嗟に手を伸ばし、大森を支える。


「先輩……」

「……無事か?」

「はい、ありがとうございます……」


 大森は少し頬を紅くしながら、ゆっくりと体勢を整え今にも泣きだしそうな女の子の頭を撫でる。


「びっくりしたねぇ、怪我はない?」

「うん……ごめんなさい」

「いいんだよ~、次から気を付けようねぇ」


 優しくさとすように語り掛ける大森はまるでお姉ちゃんのようで、普段の元気娘の姿とはかけ離れていた。


「ほら、泣かないの。お母さんどこかな?」

「うぐ……ひっく……」


 涙を流す少女は辺りを見回すが、近くに親らしき姿は見当たらない。

 おそらく迷子だろう。


「先輩どうしましょ……」

「はぁ……しょうがないな」


 俺はしゃがみこみ、女の子に持っていたアイスを差し出す。


「ほら、これやるから泣くな」

「え?」

「ずっと泣いてたらあのお姉ちゃんみたいになっちゃうぞ」


 俺がそう言うと、大森は顔を真っ赤にして「ちょ、先輩! 何言ってるんですか!」と慌てる。


「……いいの?」

「おう」

「お兄ちゃん……ありがと!」


 俺の言葉を聞いた女の子は、一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、すぐに笑顔になりアイスを受け取った。


「美味しいか?」

「うん!」

「そか」


 よかった。これでもう大丈夫だろう。

 俺がホッとしていると、後ろから大森が肩を叩いてくる。


「悪いな、アイスあげて」

「いえ、この子が泣き止んでくれたのでよかったです。それにしても、お兄ちゃんは優しいですね」

「その呼び方やめろ」


 大森はニヤニヤと俺を見る。


『えま!』


 その時、遠くの方から女性の声が聞こえてきた。

 声のする方を見ると、そこには小走りでこちらにかけてくる女性が見える。


「お姉ちゃん!」

「もう!心配したんだから!」


 女性は一目散に駆け出した女の子を抱き上げ、ぎゅっと抱きしめた。


「ご迷惑をおかけしてすみません!」

「いえ、見つかってよかったです」


 深々と頭を下げる女性に、大森は「そんな大げさなことじゃないですよ!」と返す。

 俺とそこまで年齢も変わらないように見えるが、随分としっかりしてらっしゃる。


「本当にありがとうございました。ほら、あんたもちゃんとお礼いいなさい」

「おにいちゃん、おねえちゃん、ありがと!」

「どういたしまして」

「おう」


 俺と大森は微笑みながら、姉妹に別れを告げる。


「服、大丈夫か?」

「え?あぁ……ちょっと汚れちゃいましたけど平気ですよ」


 大森は気丈に振舞っているが、先程からスカートについたアイスの染みを気にしている素振りそぶりをみせる。


「服見に行くか」

「……いいんですか?」

「それで帰るのも嫌だろ」

「そうですね。じゃあお言葉に甘えて」


 そう言って俺たちは再びモールの方に戻るのだった。

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