第6話 あざと可愛い後輩はプレゼント選びで頭を悩ませる

 食後、俺たちはumieの中を巡りながら、様々な店を見て回る。

 目的はそう『大森唯おおもりゆい、プレゼントを買う』だ。

 買いますか、買いませんか!と俺がおだてるも今のところめぼしい物は見つからず、現在俺らは三軒目の店へと向かっている。


「こういうのパパっと決めれる性格じゃなかったのか?」

「それとこれとは別ですよ……人生かかってるんで」

「いやそれは大袈裟すぎるだろ……」


 だったら俺、どこかのヒゲのおじさんぐらいゲームオーバーになってるよ。

 いつにもまして真剣な大森は、「ここも見ていいですか?」と再び店の中へ入っていく。

 俺も後に続き、店内に入ると、そこは小さな雑貨屋だった。

 商品棚にはシンプルなデザインをした物が多く陳列されており、男性へ贈っても特に問題なさそうな品揃えだ。この耳かき欲しいな。


「先輩は誕生日になに貰えると嬉しいですか?」

「金」


 俺が即答すると、大森はうんざりした表情を浮かべる。


「先輩に聞いた私がバカでした。じゃあ質問変えます、青葉先輩は何を渡せば喜ぶと思いますか?」

「だから来た時も言ったけど、俺はあいつの好みなんて全く知らん」


 そもそも男同士なんて誕生日にプレゼントを渡す習慣があまりないのだ。

 やってもジュースやお菓子を奢るくらいで、祝われる方も特に何かしてほしいわけじゃない。

 よって男が喜ぶプレゼントは何が欲しいかではなく、誰に貰えるかが重要である。


「……普通の男なら、女子からだったら何貰っても嬉しいと思うけどな」

「また適当なこと言うじゃないですか」

「いやこれガチな話だから」


 男なんて単細胞単純生物だぞ。モテない男はプレゼントどころか女の子に『おめでとう』と言われただけで昇天するレベル。なんならそこで実は俺のこと……とか変な勘違いして告白して振られるまでのハッピーエンド付きだ。どこがハッピーなんだよ、バッドだろ。


 まぁ、こんな話をしたところで、こいつが納得するとは思えんが。

 大森はしばらく考え込むような仕草を見せたあと、顔をこちらに向ける。


「……先輩もですか?」

「ん?」

「先輩も、私からプレゼント……貰ったら嬉しいですか?」


 不安げに揺れた瞳が俺を見つめている。

 その表情は今まで見たことのないもので、不意にも一瞬ドキッとしてしまう。


「……そりゃまぁ。別にお前じゃなくても、誰からでも嬉しいよ」

「そうですか」


 俺が答えると、大森は安心したように小さく微笑む。


「……決めました!これにします!!」


 大森が手に取ったのは、無地カラーのタオル。

 プレゼントとして渡すには少し地味な気もするが、実用性は高いし貰い手としても受け取りやすいだろう。毎日汗水流す男子高生相手に贈るものとしては妥当な選択といえる。あとシーブリーズとか渡せばめっちゃ喜んでくれそう。知らんけど。


「いいんじゃないか?」

「はい!」


 俺がそう言うと大森は嬉しそうに返事をし、レジへと向かう。


「ラッピングお願いできますか」

「プレゼント用でよろしいですか?」

「お願いします~」


 かしこまりましたと店員さんは慣れた手つきで、綺麗なリボンと包装紙を取り出し、丁寧に包んでいく。


「お待たせしました!」

「ありがとうございます~」


 袋を受け取った大森はニコニコと上機嫌な様子で戻ってくる。

 あと店員さん、俺の方見てニヤニヤするのやめてもらっていいですか。違うんで、ただの付き添いなんで。

 気まずくなって足早に店を出る俺の後ろを追って、大森もついてくる。

 時刻は3時前と……ぼちぼちいい時間になってきたか。


「先輩、まだ時間ありますか?」

「ん、あるよ」

「じゃあちょっと寄り道していいですか」


 大森は俺の前に来ると、振り返りにっこりと笑う。


「今日のお礼、させてください!」

「……お前は一々あざといんだよ」


 俺が小さく鼻を鳴らすと、大森は隣に並び歩き出す。


「ふふん、可愛くていいじゃないですか~」

「求めてねーよ」

「あ、先輩顔赤いですよ?照れてるんですか?」

「気のせいだろ」


 俺は誤魔化すように大森を追い抜き、歩調を速める。

 どうやら、この長い日曜日はまだまだ終わらなさそうだ。

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