こうして小森慧の長い日曜日はやってくる

第4話 あざと可愛い後輩は僕を頼りにする

 とある日曜日の昼前。

 俺は神戸こうべハーバーランドにあるumieウミエにやってきた。

 umieというのは、神戸と大阪の間にある海沿いの埋め立て地にできたショッピングモールだ。映画館に、食べ歩きスポット、そしてアミューズメント施設まで揃っている巨大商業施設であり、兵庫に住む若者なら一度は訪れたことがあるだろう。


 というか兵庫県は面積が広い割に遊ぶ場所があまりない。ここを除けば三ノ宮さんのみや姫路ひめじぐらいしか行くところないし。まぁ隣には日本屈指の人気を誇るテーマパークを持つ関西の中心都市・大阪様や魅力度ランキング毎年上位常連の日本の都・京都様がおられるし、そこと比べるとそれなりに頑張ってる方か。


 ともかく、そんな兵庫の若者御用達のumieだが、今日は休日ということもあって大勢の人で賑わっていた。


「あいつ、おせーな」


 待ち合わせ場所である、umieの入り口前にあるモニュメントの下でスマホをいじりながら呟く。

 ちなみにumieは兵庫でも有数のデートスポットでもある。昼間は映画にショッピング、夜には海の見えるレストランで食事と、それなりにロマンチックな時間を過ごすことができる。夜景も綺麗で有名だ。


 俺の前を通り過ぎるカップル達を見ると、皆楽し気にしている。端から見ると俺も彼女を待つ彼氏に見えるんだろうか。まぁ、俺はデートしにきたわけじゃないんだけどね。


「あ!  いたいた!」


 俺を呼ぶ声に顔を上げると、そこには見知った顔があった。


「すみませ~ん、遅くなりました」


 そう言って手を振りながら近づいてくるのは、ここに俺を呼び出した張本人でもある後輩・大森唯おおもりゆいだ。


「待ちましたか?」

「それなりに。なんなら帰ろうかと思った」


 俺が冗談半分でそう言うと、大森はジトッとした視線を向けてきた。


「そこは嘘でも待ってないって言うところですよ」

「いや、別にお前とそんな気を遣うような関係じゃねぇし」


 それに、集合時間より15分も遅れてやってきてるわけで、待たされてるのは事実なんだよな。


「つーか、ここで待ち合わせるより、同じ方面から来るんだし地元から一緒に電車乗ってきた方がよかったんじゃね?」

「え? そこはアレですよ。ドキドキ感がないじゃないですか~」

「意味わからん」

「乙女心ですっ」

「相手考えろ」


 これ以上のやり取りは面倒なのでやめておく。


「で、先輩どうですか?」

「は?」

「だから、今日の私について感想はないのかと聞いてるんです」


 大森は自分の服を見せつけるようにして胸を張る。

 ふむ。確かにいつもの制服姿とは違い、白を基調としたブラウスにピンクベージュのロングスカートといった格好は新鮮味を感じる。しかし、こういった場合は何と答えるのが正解なんだろうか。


「あー、うん、まぁお前っぽいな」

「それだけですか!?」

「いや、他に何言えと……」

「可愛いとか、綺麗だとかあるじゃないですか!  あと、服装に合わせたメイクもしてきてるんですよ!」

「そういうのはお前の好きな人に言ってもらうんだな」


 俺がバッサリ切り捨てると大森は不満そうな表情を見せる。


「先輩はもう少し女の子の扱い方を学んだ方がいいと思いますよ」

「ほっとけ」


 そもそも俺にそんなキザな台詞は似合わんだろ。


「……はぁ、もういいです。さて、行きましょうか」


 大森は諦めたようにため息をつくと、何やらスマホで調べ始める。


「それより、なんで今日俺はここに呼ばれたわけ? 結局何も聞いてないんだけど」


 あの日の放課後、大森の『先輩、付き合ってくれませんか?』という台詞。

 正直、雰囲気も相まって、一瞬だがこいつに告白されたのかと思ってしまった。

 まぁ、こいつの好きな奴の話を聞いた直後だったし、後出しじゃんけんの如く『日曜日空いてませんか』って付け加えてきて、俺の勘違いだってことにすぐ気づいたけど。


「あれ? 言ってませんでしたっけ?」

「言ってないな」

「ごめんなさい、うっかり忘れてました。えっと、今日は私の買い物に付き合ってほしいんです。実は、来週青葉あおば先輩の誕生日があるんですよ」


 そういえばこの時期だったか。

 昔は家族ぐるみで誕生日会的なことをしてケーキとか食べた記憶があるけど、気が付いたらそういうのもなくなっていたな。


「それでプレゼント買いたいんですけど、男の人の意見が欲しくて……それに、先輩と青葉先輩って幼馴染なんですよね? だったら好みとかもわかるかなって思ったんですけど……」

「おまえ、そういう大事な話は先に言っておけよな」


 何も聞かずのこのこやって来る俺も俺だが。


「期待されてるとこ悪いけど、俺はあいつの趣味嗜好しゅみしこうとか知らねぇぞ?」

「大丈夫です! 一応参考までに聞きますので」

「へいへい」


 仕方ない。おそらく力にはなれないが、ここで帰るのもあれなので付き合ってやるか。

 いくつか目的地を定めたところで、大森が俺にたずねてくる。


「では、まずどこに行きましょうか」


 とりあえず……といったところでどこからか旨そうな匂いが漂ってくる。

 時刻は11時半と昼食には少し早い気もするが、腹も減ってきた。


「そうだな。先に飯食いに行くか」

「賛成です!」


 大森の賛同も得たところで、俺たちはumieの中にあるフードコートに向かうことにした。

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