終焉の理
綾織綺花
第1話
突然だった。
最近までなんとなく生活を送れていた。
世界的には不幸と言えることがいくつもあった。それでも乗り越えられていた。
そんな時に、この世界に終焉が訪れると母から告げられた。母はなんとも言えない表情をしていた。
当然、私は信じなかった。母がそんな悪い嘘を吐くとも思えないが、それよりもこのせかいに終焉が訪れると言われたことに驚きを隠せなくて母に柄にもなく酷い言葉をかけてしまった。
「何を言うのよお母様!そんなわけないじゃない!世界に終焉なんてそんな、そんな!
わかった!お母様また薬を切らしたのを黙ってたの?薬が切れたら言ってって言ったじゃない!」
母が言ったことが信じられないのを母の病気に使っている薬が切れたせいにして、私は家を飛び出てしまった。
しかし、外に出てみればなんだこの有り様は。いつもこの街は活気にあふれているのに
みんな抜け殻のようになってしまって、呼びかけているのに返事すらしてくれない。
「お母様にせよ、街の人にせよ、、みんな
何にそんなに惑わされているの、、?」
しかし、私はこの後母が言っていたことが
本当のことだと思い知らされるのである。
テレビをつけた。みんなの視線の先にはテレビがあったから、何か情報を得れるかと思った。つけた途端に私は絶望したのだ。
「「終焉報道」から3時間、街では自殺を図る人や絶望した人で溢れかえっています!」
このリポーターは何を言っている?本当にこの世界は終わるのか?私は様々な思考に飲み込まれて気がつけば日が暮れていた
今日私は気づいたことがある。終焉を前に人は何もできない。終焉という名の神に跪く他ないのだ。
この前見たニュースによれば、終焉が訪れるのはこれから後1週間。まだ時間はある。
母は、
「私の世話はもうしなくていい。私にも、あなたにも残された時間は後1週間。あなただけでも広くて美しい世界を見てきなさい。ただ、終焉が訪れるその時までにはここに帰って来て、共に終わりましょう。」
と言われた。母は受け入れているようだった。母が受け入れているのならば私も受け入れなくては。と思い、母の言う通りに少しの荷物を持って家を出た。
家を出たはいいものの、広くて美しい世界などあるのだろうか。私が住んでいた街は
荒廃していて美しいものなどなかった。
「お母様の言う美しいってなんなのかな、。」
終焉が訪れることを受け入れてはいるが、
理解したわけではない。そもそも私はお母様とずっと暮らしてきた。美しさなんか知るわけがない。そこで一度だけ本で見たことがあった氷河を見に行くことにした。どうしても終焉が訪れるその時は母と一緒にいなければならない。さっさと見て、美しさとやらを体感しようと思った。
それから二日ほど歩いて氷河に着いた。
途中で分かったことだが、氷河は何年も終焉についての研究が行われていたらしい。
でも詳しいことはわからなかったようだ。
まあ目的はそれではなく美しいものを見ること。とにかく見てみるほかない。
そう思って私は、本の中の世界で見た氷河を沢山見て目に焼き付けた。
やはり何か足りなかった。私には感性というものが欠如しているのかもしれない。
もう終焉の時が迫ってきているから、こんなことをしている場合ではないという本能からの警告なのかもしれない。でももう諦めさせてくれ。抗う気も起きないのだ。ここで争えば何か変わるか?いや、そんな奇跡はあり得ない。ながいながい歴史の中で奇跡は幾度もあったはず。それでも奇跡を起こそうとしないのはもう終わりがそこに見えているからである。
そんなことを考えながら氷河を抜けてまた家に帰ろうとしていた。自分は何を見ても美しいと思えないと分かっただけで、家までの道のりがこんなにも遠くなった。ここまでくる時は途中で休みながらも希望を抱いてここへ来た。己の感性の欠如に気づかず、ただただ美しいものを見られるという希望だけで、
なんだかワクワクした。知らないことを知るのは楽しいから。足もよく動いた。
「自分が思っていたのと何か違う」
というのは結構つらいようだ。下を向いて歩いていると、壁にぶつかった。久しぶりに
前を向くと、小さな小屋があった。
人がいなかったので、私は入ってみることにした。
その小屋はどうやら研究室のようなものだった。おそらく噂にあった、
「終焉について研究していた」研究所
だろう。周りに投げ散らかしてあった資料を読んでみることにした。
これを見た人は至急呼び掛けを!
終焉は思ったより身近にある。
僕も最近知ったことだ。いや、知ったと言うより、 分かった が正しいかな。
これを見ている貴方がいつの方かはわからないが、僕のいる時代から終焉っていうのは
都市伝説的な意味で有名だった。
「終焉」っていうのは結構研究材料になってたんだけど、僕が研究しているうちに色々
根拠が出てきてしまって、終焉っていう事について調べることが禁じられた。
それで、僕が伝えたいのは、終焉の真実についてだ。
終焉が訪れるときに、ニュースや新聞で報道が出て、絶望する人は多くいる。(と思う。)
でも絶望するのが一番ダメなんだ。絶望してみんなが諦め始める、そうすれば希望は生まれなくなる。人と人の信用と活気、少しだけの希望と少しだけの絶望がこの世界を創ってくれている。その均衡が崩れたら、この世界は終焉に傾き始める。神は人が世界を終焉の方に傾けるその瞬間を待っているんだ。
伝えたいことはこれだけだ。僕にはこれを見ている貴方に伝えることが使命だと思っている。最後に僕の研究所の合言葉を言わせてくれ!
「ああ、白き花よ、私を包み込んで、
眠って。」
「ああ、黒き深淵よ、私を導き給え。」
君と永久に在らんことを!
ファウスト
これを見た時、私は多くのものを知ったと同時に、私も終焉に加担していることに気付いた。確かにそうだ。これなら知らず知らずのうちに加担してしまうはずだ。
これを街のみんなに伝えなければ。
急いでお母様の元に帰ろう。伝えるだけでも意味があるはずだ。私はお母様の元に急いで帰り始めた。ここに来る時よりも息が長く続いて疲れなかった。目標を持つと意外とできるものだと思った。
あの小屋から一1日半かけて街に帰ってきた。みんな相変わらず抜け殻のようだったが
その中で1人、私だけ笑顔で母のいる家に向かっていた。終焉の時はまだのはず。母にこの朗報を伝えよう。そして美しい世界についても話そう。この世界に美しい世界なんてなかった。美しい世界はみんなで作り上げた形にないものだと、私は分かった気がした。
しかし、神はそんな私に見向きもしてくれない。神からしてみれば、1人が抱いた希望など胡麻の粒程度にもならないのだ。
母はニュースを見ていた。そのニュースを見て、私はもう諦めた。人1人の希望じゃどうにもならない。終焉の時は近づいていた。
母は言った。
「よく帰ってきたわね。広くて美しい世界は
見られたかしら?それでも早く帰ってきてくれてよかったわ、もうすぐ終焉の時が来るんですって。」
母は何故そんなに冷静なのだろうか?もう私たちの命は尽きるというのに、なぜ?
母は続けて言った。
「美しいものには期限がある。美しいままの期間が。そして、美しいものは一度枯れ果てて自然に還る。そしてまた美しいものへと返り咲くの。」
「私の部屋から一冊の本を取ってきて。
それを読んでみるといいわ。」
母の言う本を探すべく、母の部屋に向かった。正直本なんか読める気分じゃない。いろんな感情がごちゃ混ぜになって、今にも頭がパンクしそうだ。本はどこなんだ。母の部屋に本なんかそんなにない。お金持ちなわけじゃないから本はそんなにないはずだ。
母の部屋の机を掻き分けて漸く見つけたのは、ボロボロになった薄っぺらい本。本っていうより冊子みたいな感じだけど、一体何が書いてあるっていうんだ。リビングに戻って母に尋ねた。
「本っていうか、この冊子しかなかったよ。
こんなのに何か書いてあるの?」
「一番後ろのページを見てみなさい。お母様はその言葉が好きなのよ。」
そう言われて私は一番後ろのページを見た。
表紙には「終焉研究会」と書かれていた。
一番後ろのページには、
起源と終焉は、表裏一体である。
終焉が訪れるその日、神にとっての起源の日となる。
神にとっての起源の日、全ての生けるものの
終焉となる。
「ああ、白き花よ。私を包み込んで、眠って。」
「ああ、黒き深淵よ。私を導き給え。」
君と永久に在らんことを!
と書かれていた。見覚えのある文、筆跡。
そう、あの小屋で見たものだった。
「その本、ずーっとうちにあってね。お母様は小さい時から読んでいたから、合言葉を覚えちゃったのよね。確か、「君と永久に在らんことを!」だっけ?」
母に伝えなければ。美しい世界の思い出を。
あの小屋に行って、手紙を見つけて、不思議な高揚感を覚えたことを。
そう思って「ねえ、お母様、」と言いかけたその時、目の前が目を開けられないほど明るくなって、私は走馬灯をみた。これまでの短い人生の思い出で作った美しい、美しい、走馬灯を見た。そして小さく呟いた。
「これが終焉か、、。」
こんなもの、誰にも抗えるわけがない。
そしてあの言葉を思い出した。
起源と終焉は、表裏一体である。
終焉が訪れるその日、神にとっての起源の日となる。
神にとっての起源の日、全ての生けるものの
終焉となる。
「ああ、白き花よ。私を包み込んで、眠って。」
「ああ、黒き深淵よ。私を導き給え。」
君と永久に在らんことを!
そうして私は17年という短い人生を終演した。
終焉の理 綾織綺花 @mmooaa
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