魂の拠り所

橘しずる

第1話

 心霊スポットに行く人もあるだろう

 肝試しで……

 探究心を持った検証……

 偶然に……見えないものに引き寄せられて……

 様々な理由で、訪れる人があるだろう

 

 これから語るのは、心霊スポットに行き何かを連れて来てしまった青年の話……

 

 

 僕はオカルトに興味はない

 さりとて、幼い頃から霊感があるらしく……生きた人以外の存在を見てしまう

 今も大学近くの下宿に暮らしているが、僕の暮らす部屋は家賃が安い……破格に安い部屋だ

 友人曰く、事故物件じゃないかと言われている

 だから、友人と部屋で飲んでも電車のあるうちに解散になる

 夏の足音が間近に感じる暑い日に、友人と部屋飲みをしながら怖い話をしていた……友人はネタが尽きた頃合いで、大学近くに心霊スポットがあるらしいんだと言った

「あまり興味はないな」 

 僕の味気ない返事に友人は

「あまり知られてない場所らしい。行ってみようぜ」

 と誘う

 正直、断りたいが……僕の部屋で飲んでいた友人達も

「知らなかったわ。行ってみようぜ」 

 と言った

 民主主義とは、時に不公平と思う……僕の部屋で飲んでいた友人達に押され、友人Sとしょう……彼らと行動を共にする事になった

 

 Sは大学の裏門付近に僕達を案内する

「……ここか?」

 友人MがSに尋ねる

「ここは大学の裏門だ。俺達は後ろに見える森の鳥居を目指すんだ」

 僕はSに森は立ち入り禁止だと言った

「わかっているさ。○○は郷土史を専攻しているだろう。この森がどんな場所か」

 僕はため息をつき

「知っているよ……禁忌の森だ。Sの言う鳥居はないぞ」

「あのさ~」 

 Mが僕たちの間に入った

「鳥居の話って、単なる噂だろう?見つけたら、不幸になるとか……呪われるとか……」

 Mに僕は「おかしな噂だろう」と言葉をかいした

 

 大学近くにある禁忌の森は、どこかの領主が戦に負けて逃げのびた村の跡地らしい

 正確に言うと大学の敷地の3分の2も含まれる……だから、キャンパス内には、村の名残がところどころにある

 禁忌の森はちょうど村外れの位置になる……落ち延びた領主と家来はその森の中でひっそりと暮らしていたが、残党狩りで村まで被害に合ってはたまらないと村人達が奇襲をかけたそうだ……襲われた領主は「許さぬ!許さぬ!この地を呪うぞ!」

 と叫び、息絶えたと伝えられている

 

 さて、僕が都市伝説的な話は信じないが……この森の伝説はあり得るかもと思っている

 それは……大学建設時に、この森に手を入れようとすると事故が多発したからだ

 だから、この森だけ、市町村の所有地となって残されていた

 大学は郷土史研究の為に、立ち入り許可を得ていた……ただし、郷土史に関わる者のみの立ち入りが許されていた

 今夜は許可なしの立ち入りとなっている……

「さぁ行こう!」

 Sの陽気な声が僕達を、肝試しに誘おうとする

 禁忌の森は大きな口を不気味に開き、訪問者を呑みこもうとしていた

 

「なんにもないな……」

 Sが呟いた

「ただの森さ……獣道のところどころに、石碑やら墓石のようなものがあるだけだ」 

 僕はぶっきらぼうに話す

「あのさ~さりげに怖いことを言うなよ」 

 Mがキョロキョロと周りを見ている

 

「○✕✼✤✖○◇◁◇○……」

 後方からくぐもった声がしている

 ガサガサと足音もする

「オイ……」

 Mの歩みが止まった。

 Sはドンドンと前進する。

 僕は二人の様子を見ながら、歩みを進めていた。

「M、置いて行くぞ……」 

「待ってくれ……体が動かないんだ!」

「S!!止まれ!……Mの様子がおかしい」

 僕は大声で、Sに声をかける。

 しかし、Sは止まらない……

 Sの向かう先には、祠が祀られていた。

 

「森に入る時は、粗塩を忘れないように……」

 教授の言葉を思い出した

 僕はポーチの中に粗塩を入れていた……Mに駆け寄り、粗塩をまいた

「ハァハァ……誰かに抑えつけられた」

 Mの息づかいが荒い

「Sを追うぞ」 

 僕たちは祠に向け、速歩で向かう

 

 祠に着いたMと僕……

 祠の前で佇むSに近づこうとしたが

 金縛りにあって、息苦しくなった

 

「あぁ……鳥居だ。オイ!見つけたぞ!」

 Sが僕達の方に振り向いた

「ヒッ……S……祠から離れろ!」

 僕はかすれた声で叫んだ

  

 Sの背後には、鳥居の形をした……

 オブジェのような……

 多くの白く透けた手がSを捕らえようとしている

「オイ!塩をSにまけ!!」

 Mが僕に向い、怒鳴る

「塩……あっ!」

 僕はかろうじて動く利き腕をボシェットの中に入れ

 塩を一握り握ると……力いっぱい、Sに投げつける

 

 バシュッ!

 Sの顔面にヒットし……Sが「何をするんだ!」と

 顔面の塩を払いつつ、僕とMのところに来た

 すかさず、「二人とも、ここから離れるぞ!」 

 僕はただひたすらに、裏門に向い歩き出した

 後日、Sに起きた事の説明をする事となってしまった

 

「なぁ……最近、Sの様子がおかしくないか?

 無遅刻無欠席のSだったのにな……」 

 Mが学食で話しかける

 肝試しの後……そう、Sに事の経緯を話した後あたりから

 大学に顔を出していない

「M、お祓いに行かないか?

 Sも誘ってさ」

 僕も肝試しの後……自宅でも、大学でも気配を感じるようになっていた

 

「や……やめろよ!」

 Sが漆黒の闇の中を抗うように、寝床でのたうち回っていた

 そんな最中にインターホンが鳴る

「おーい!S……差し入れだぞ!」

 Mがインターホンを鳴らし、声をかける

「大丈夫か?S……」 

 僕がコンコンとノックをする

「なぁ……Sの奴、出かけているんじゃない?」

 Mが言う……しかし、ドア越しではあるが物音がしている

「Sが外出しているのに、部屋から物音がしている……Sに連絡をしてみよう」

 僕はSに連絡をすると……室内からSのスマホの着メロが聞こえる

「S……いるのかな?管理人にあけてもらうか?」 

 Mが言い終わらないうちに、カチャとドアが開いた

「………近所迷惑だろう!」

 体中、汗まみれのSが出てきた

「とにかく……入れよ」

 Sの部屋はカーテンが陽射しを遮り、室内が暑い……

「なんか暑くないか?換気をしょうか?」

 Mが窓に近づく

「……カーテンは開けるな」

 Sは呟いた

 何があったのだろうか?

「S……どうしたんだ?」

 僕は尋ねた

 

 Sは肝試しの後、いつも誰かに見張られている感じがしていたそうだ

 部屋にいる時は、冷凍庫にいるように寒い為に暖房を入れている…… しかも、一日中

 眠ると足音や人の囁きが聞こえると話をした

 最近では、人が体に乗ってきているそうだ……

「だから、眠らないようにしているんだ」

 Sはうつむきがちに話した

「部屋が暗いだろう」

 Mがカーテンを開け、陽射しが部屋に入ってきた

 慌てて、Sが窓とカーテンを閉めた

 僕はさりげに暖房を消す

「外に鳥居が見えるんだ……」

 怯えるS……

「これから、お祓いに神社に行かないか?」

 Mが誘う

「外に出るのが怖い……」

 Sに「僕達も一緒だから……大丈夫だ」

 と言いながら、神社にお祓いに行った

 

 しばらくはSも元の生活に戻っていた

 僕たちの進路を決めなくてはいけない時期になり

 Mは就活…… 

 僕は大学院入試……

 Sは就活していたが……最終面接の日に忽然と消えた  

「鳥居をくぐって、祠にお詣りしてくるよ」 

 僕のラインにメッセージを残して消えた

 僕は研究室に大学院生として、通う日々を送っている

「S…お前は何処にいるんだ…」 

  Sは行方不明のままだ…

 

 

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魂の拠り所 橘しずる @yasuyoida

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