拝啓 天馬 私はどうやら“王の剣”を甘くみていたようです
まさか、これほど…
――――これほど、女性が一人もいないとは!!
ルカに気づかれないよう、くまなく探したけれど、まったく一人もいないのよ。前世の男子校だって女性教師がいたのに、“王の剣”には一人も、たった一人もいないなんて信じられる!?
チラチラと辺りを見ても女性はおらず、食堂ならいるのではないかと探してもおらず、もう絶望しかなかったわ。
いるのは、私を見張っている黒星だけ。見つからずに護衛をしているつもりなのかもしれないけれど、あの悪意の視線で分かるわ。
見たいものは見つからず、見たくないものはよく見えるものね。
それにしても、黒星の方々はもっと感情を隠せばよいのに。
悪意の瞳は、さすがに不快だと感じるけれど、私を不快な気持ちにさせる男たちを、私という存在がより彼らを不快にさせていると思えば、してやったりという気持ちになり、幾分溜飲が下がります。
それに、ジェラジェラの無表情で、なんの感情もみえない顔を思い出せば、黒星の生徒たちの不満顔はまだ可愛げがあって心を広く持てるわ。
ああ、それにしても今日は色々な人に会って少し疲れました。
まずニコル似のルカ・フォーセル。
ルカはとても可愛らしくて、礼儀正しくて。侯爵家の姓を名乗っているのに、妾の子だからと自分のことを貴族だとは思っていないのがなんだかいじらしくて、“王の剣”で初めて好感を持った男の子よ。
ジェラジェラとルカが並んだら、きっとラナお姉様とリリナ様がお喜びになられると思うのだけれど、ジェラジェラはともかく、ルカが行間の刑に処されるのは可哀想だから、ルカのことはしばらくラナお姉様には黙っておこうと思い直しました。
逆にラルス・リドホルムみたいな子だったら、無慈悲に行間の刑に処せたのだけど。
なぜそんな無慈悲なことができるのか、それはラルス・リドホルムが、私の胸を冒涜したからよ!
天馬、私、生まれて初めて胸が小さいと指摘されたの。
ええ、確かに胸は小さいわ。小さいと言うか、ないわ!
でも、指摘されたのは初めてだったわ。普通言わないでしょう、こんな愛らしくもあどけない少女に向かって胸がないだなんて!
これが以前の私なら激怒していたかもしれませんが、“女王の薔薇”で学んだことがいかされ、まったく怒りを覚えませんでした。
これも、豊穣の女神が私を諭してくれたおかげです。
ああ、リリナ様、ありがとうございます!
貴女という存在が、私をまた一歩優雅な淑女として前進させてくれたのです!
さて、そのラルスなのですが、仲間内だと思って口にした中傷を、紫星を賜った私に聞かれ顔が青ざめていました。そんな顔をするくらいなら、最初から言わなければいいのにと思ったけれど、彼の気持ちも分かるの。
友人の前では尖がっていたい。そんな不必要な男らしさを演出したかったのでしょう。ですが、そういった男らしさは、女性の目から見ると大抵痛い男にしか見えないわ。声を大にして言いたかった。
勘違いよ! 男らしさを勘違いして、女性に嫌われる男になっているのよ、貴方は! と。
しかし、私も紫星を賜った淑女です。声を荒らげるなどいけないわ。だから、ちょっと、少しだけ、すこーしだけお説教して、あとは一冊の本を渡してあげたわ。
タイトルは『モテる男の必須条件を獲得するためには!』。
第一章は、女性の求める男像。
第二章は、モテない男のあるあるポイント。
第三章は、モテる男はここが違う、事例集!
第四章は、モテる男の秘術を知る。
第五章は、モテる男とモテない男、どちらが幸せか今一度考える。
ちなみに、第二十五章まであるわ。
私が書いた至高の一冊よ。
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