拝啓 天馬 私はどうやら“王の剣”を甘くみていたようですⅡ


 実はこれ、花の祭典に出そうかと考えて書いていたのだけれど、直前まで悩んだ結果、『オーランド王国下水道計画』を選び、結局日の目を見ることのなかったものなの。


 私にとって『オーランド王国下水道計画』と遜色のない知識の集大成。紳士としての全てを集約したこれは、もう一つの最高傑作と言っていいでしょう!


 え、なんでそんなモノ書いたかって?


 だって、『モテる女の必須条件を獲得するためには!』なんて、私には必要ないでしょう。


 それなら、前世の反省を踏まえ、かつ今女性としての感性でモテる男を研究し、その能力を得られれば、今世は女性にモテるかもしれないじゃない!


 ……ん? それなら『女性にモテる女の必須条件を獲得するためには!』を、書いた方がよかったかしら?


 うーん、どっちが正解だったと思う、天馬?


 あ、言っておきますが、お前はアホなのか、みたいなツッコミならいらないわよ。私の中に男としての記憶がある限り、私は可愛らしいお花のような女の子の存在を、近くで感じていたいの。そのための努力は惜しまないわ! だって女の子可愛いから!


 あら、なぜかしらキモイって聞こえてきた気がするわ。でもそんなことないから、きっと気のせいね!


 天馬、貴方にも読ませてあげたいくらいだわ。――鼻で笑われそうだけど。


 ラルス、読んだら感想を聞かせてくれるかしら?


 人に読んでもらうのは初めてだから、ぜひ意見を聞きたいわ。――まぁ、そもそも読んでくれるかも分からないけど。


 アラン様がやけに私を持ち上げるような発言ばかりするから、最後には顔色が青から土色になっていたけど、あの子大丈夫かしら?


 ああ、アラン・オーバン様はね、金星五つを賜ったすごい方なの!


 アラン様とお会いできただけでも、“王の剣”に来た甲斐があったわ。


 アラン様が国交を閉ざしていたルーシャ王国との交流を復活させてくださったおかげで、“アマネ”を育てることができたのだもの。その“アマネ”から、クレトとも出会えたし、アラン様にはとても感謝しているわ。


 アラン様はとてもお優しくて、紳士的で大人の方だけど……でも、星五つを賜った方って、皆さんどこか少し変わっている気がするの。


 それに、ロレンツオ様もそうだったけど、どこか探られているような気がするわ。


 勿論、こんな大人しそうで、か弱い淑女な私が下水道計画を考えるなんて、普通ならあり得ないことでしょうから、不思議に思われるのは分かるわ。


 例えば、実は私の策定ではなくて、他に策定したものがいて、大々的には私が発案者だということにして、名声を得ようとしているとか。そういう風に思われても不思議ではないと思うの。だから、最初はそういう疑いをもたれて、探られているのかと思ったのだけど、どうやら違うようなのよ。


 ……なんというか、面白いオモチャを手に入れた少年が、どこのスイッチを押せば動くのか、スイッチを押せばどう動くのか、そのカラクリをワクワクした目で探しているような。


 正直、数日後にロレンツオ様とお会いするのが少し怖くなってきたわ……。


 これは、心してかからなければいけないわね。


 天馬、この可愛らしくもか弱い淑女な私を応援していてね!






 天馬に何度目かの応援を求めた次の日、ソフィーはホールで微笑むルカに幸せを感じていた。


(朝から、あの無表情な男を見なくてすむというだけで、なんたる幸福感! もうずっと護衛はルカがしてくれないかしら!)


 たった二日、ジェラルドが護衛だっただけで多大なるストレスを感じていたソフィーにとって、可愛らしく微笑むルカはまるで天使のようだ。


「今日も一日お願いね、ルカ」

「はい!」


 素直に返事を返してくれるルカに、ソフィーは頬が緩み過ぎないように、淑女らしい笑みを浮かべた。

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