第11話 また会う日まで

 終演後。


 スタッフさんやメンバーから沢山の花束を受け取った桃子さん。


 どの花よりも輝いて見えた。


 最後の集合写真を撮り、メンバーたち一人ひとり抱きしめていく。


 言葉を交わしながら。


 背負っていた物を全ておろした桃子さんの表情は晴れ晴れとしているのに対して、メンバーは涙で顔をグチャグチャにしていた。


 それだけ彼女がしたわれていたってこと。


 愛されていたってことだ。


 微笑ましい光景を少し離れたところから見守っていたら、いつの間にか残るは私一人になっていた。


「華凛」


 名前を呼ばれ、ゆっくりと彼女に近づく。


「8年間、お疲れ様でした」


「うん。ありがとう」


 こみ上げてくる涙をぐっとこらえ、言葉をつむぐ。


 「私、頑張ります。桃子さんを超えるリーダーになってみせます。だから……見守っていてください。一瞬も見逃さずに」


 声が震えてしまうのは許してほしい。


 こればっかりは抑えきれない。


「一瞬もかあ……無茶言うね」


 苦笑した桃子さんは、

「でも、善処する。貴女がもっと輝くのを、咲き誇るのを楽しみにしているから。頑張ってね」

 そっと私を抱きしめてくれた。


 彼女の背中に手を回し、肩に顔をうずめる。


 いよいよ涙が零れそうになってきたけれど、耐える。


 決めたんだ。


 笑って送り出そうって。


「はい、頑張ります。桃子さんも、新しい道で幸せになってください」


 貴女の幸せを心の底から祈ろうって。


「ありがとう。じゃあ、ね」


 カラダを離し、お互い見つめ合う。


 桃子さんは静かに頬を涙で濡らしていた。


 その瞳に映る私は、ちゃんと笑えていた。

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