第10話 未練はない *桃子*

*桃子*


 挨拶を終えて、頭を下げた。


 声は震えていたし、いつの間にか涙が止まらなかったけど、ちゃんと言い終えることができた。


 会場から聞こえてくる「桃子! 桃子!」という声。


 もう二度と聞くことはないであろう、大切なファンのコール。


 満足だ。


 幸せだ。


 みんなに応えるように手を振りながら、思い出す。


 最初の頃はライブをしても空席ばかり。


 曲も全然売れなかった。


 それでも5年目までは、誰も抜けずに一緒に走ってこられた。


 4期生が入り29人になってから、少しずつメンバーが辞めていった。


 これからだというのに。


 漸くTVに出られるようになってきたというのに。


 けれど、彼女たちを引き留められなかった。


 それぞれの人生があったから。


 見送るしかなかった。


 今は曲を出せば地上波の歌番組に出られるようになって、年末の歌番組にも毎年呼んでもらえるぐらいに成長した。


 本当に頑張って来てよかった。


 このグループに入れてよかった。


 メンバーたちに出会えてよかった。


 もう芸能界に未練はない。


 後悔もない。


 これからは、いちファンとして見守っていこう。


 じゃあね、みんな。


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