第5話 適任 1/3 *桃子*

桃子とうこ


 2月下旬、事務所の会議室に華凛かりんを呼んでもらった。


 コンコンコン。


「どうぞ」


「おはようございます」


 頭をちょっと下げ、低姿勢で入って来た華凛。


 目が泳いでる。


 多分、なんで呼び出されたのか必死に考えてるんだろうなあ。


 もしかしたら「怒られる」とか「注意される」とか思ってるのかな。


 全然違うんだけどね。


「どうぞ、座って」


「しっ……失礼します」


 おどおどしちゃって。


 いつもはもっと気軽に接してくれるのに。


 なんだか最近距離を感じるんだよねえ。


 とはいえ、ちゃんと話をしないと。


 私の真正面に座った華凛の目を真っすぐ見つめる。


「ごちゃごちゃした前置きは嫌いだから、単刀直入に言うね」


「はい」


 彷徨さまよっていた視線がバチっと合った。


「華凛に次のリーダーを任せたいの」


「……はい?」


 目を見開いて驚いちゃって。


 可愛いなあ。


 ちょっと丸顔で、大きな瞳が特徴的な華凛。


 グループの中で一番長い、腰の丈まである、一度も染めたことがないという丁寧にケアされた黒い髪。


 いつも私の後を追い続けてくれた大切な後輩。


 誰よりも努力家でおごらない華凛。


「貴女がこれからグループを引っ張っていって」


 そんな華凛だからこそ、これからのグループを任せたいの。


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