第2章 伝える

第4話 貴女しかいない *桃子*

*桃子*


 私の卒業曲『桃の花』が2月に発売され、各歌番組に出演した。


 どの歌番組でも卒業を祝福された。


 泣きそうになったけど、我慢したよ。


 私が泣いちゃったらメンバーも泣いちゃうんだもん。


 それぐらいわかってる。


 長年の付き合いだから。


 でも、最後の歌番組に出演したときは……我慢できなかった。


 自分でもビックリ。


 こんなに泣き虫だったとは。


 今まではどんなに辛いことがあっても泣かず、メンバーを慰める側の人間だったから。


 私につられて泣いちゃったメンバーたち。


 その中で、華凛かりんは泣かなかった。


 必死に涙を堪えていた。


 流石、私たちの絶対的センター。


 やっぱり……次のリーダーはこの子しかいない。


 ずっと思っていた。


 後を任せるのはこの子しかいないって。


 私は大学に進学しなかったけれど、彼女は猛勉強して難関大学に合格した。


 アイドルと学業と両立していて凄いと思う。


 誰よりも頑張り屋さんな彼女。


 どんなに忙しくっても、ライブの打ち合わせに私と一緒に参加していた彼女だからこそ、任せたい。


 あと、周りの子をよく見れている。


 体調が悪そうなメンバーがいれば、先輩であろうとすぐに声をかけにいくし。


 私は「メンバーのことをよく見ている」と言われるけれど、私以上にメンバーのことを気にかけている。


 ただ一つ気がかりなのは、2021年の7周年以降発売されたシングル、アルバムのタイトル曲でも、彼女がここ最近センターを務めさせられていること。


 誰もが憧れる華々しいセンター。


 その実、トゲがある、輝かしいだけじゃないセンター。


 リーダーにもグループに対する不平不満は言われるけれど、センターは私以上に風当たりが強い。


 誰も前にいないセンター。


 一番前にファンがいるプレッシャー。


 グループの顔として、アイドルらしい行動が求められるセンター。


 これ以上彼女に重荷を背負わせていいものか悩んだ。


 それでも、次のリーダーは華凛しかいない。


**

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る