第2話 アンコール

 会場中から聞こえる「桃子とうこ! 桃子!」コール。


 ファンからの声援に応えるように桃子さんが顔を上げた瞬間、最後の曲が流れ始めた。


 現実を受け入れられなくても、ライブは終わりへと向かっていく。


 歌いながらみんなが桃子さんに駆け寄る中、私はセンターで歌うことしかできなかった。


 本当はメンバーと同じように駆け寄って抱きしめたい。


 でも、そうしたら涙が止まらなくなってしまいそうだから。


 想いが溢れてしまいそうだから。


 私はみんなが求めている『センター』を演じるしかない。


 花道を通ってセンターステージに向かいながら桃子さんを見れば、2期生の先輩に抱き締められながら泣いていた。


 どんなときでも泣かない、弱さをみせない彼女が、今日初めて涙を見せた。


 それだけで私も泣きそうになって。


 慌てて前を向きファンに手を振る。


 目は潤んでいるけれど、ギリギリ泣いていない。


 頭の中は桃子さんのことでいっぱいだけど。


 卒業だけじゃなくて、芸能界を引退してしまうなんて。


 耐えられないよ。


 もし、芸能界に残っていてくれたら、例えば10周年とかに、サプライズで登場してくれるかもしれない。


 番組で共演できるかもしれない。


 引退しちゃったら……一般人と芸能人。


 同じ世界に生きていても、高い壁で遮られている。


 なるべく桃子さんを見ないようにしながら花道を走る。


 これから自分がどうするべきなのか。


 気持ちを伝えるべきなのか。


 心の中に渦巻く愛情に蓋をしておくべきなのか、考えながら。


 2022年末の出来事だった。

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