最後の1期生 2

「それが、3期生の子たちが入って来てから流れが変わり始めて。4期生の子たちが入って、完璧に流れが変わりました」


 話しているうちに声がうるんできて、後ろを振り返り、メンバーたちの顔を見ていく。


 もう……そんな顔しないでよ。


 涙を堪えるために後ろを向いたのに、寂しそうな、辛そうな、悲しそうな顔をされたら、我慢できないじゃん。


 マイクを握り締め、前を向く。


 いつまでも後ろを向いていられない。


 新しい人生を歩んで行くために。


「シングルを出せば1位を獲得できるようになって、今はこんなに大所帯になって。私たちがここまでこれたのは、ファンのみなさんのおかげです。本当にありがとうございます」


 頭を下げると、「桃子とうこぉ!」という声が会場のあちこちから聞こえてくる。


 あぁ……こんなにも愛されてるなんて、私は幸せ者だ。


 愛情を感じて堪えきれなくなった涙がステージに落ちた。


 よし、言おう。


 いつまでも引き延ばしちゃいけない。


 頭を上げて、

Push☆Pushプッシュ・スター・プッシュはこれからもっと大きく、成長していきます。だから……私も、新しい道で、成長していきたいと……考えています」


 もうこのグループは私なしでもやっていける。


 だから、大丈夫。


 ざわめきが強くなった会場全体に響き渡るように、真っ直ぐ前を向いて口を開く。


「わたくし、岡本桃子とうこは来年の3月末でグループを卒業し、芸能界を引退します」


**

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