散る花に手を伸ばす

佐久間清美

本編

プロローグ Graduation *桃子*

最後の1期生 1/2

桃子とうこ


 最後のアンコール前の、MC。


 今日も楽しかった。


 テレビ番組で歌を披露するのも楽しいけれど、やっぱりライブで、ファンのみんなの前で歌うのが一番楽しい!


 沢山の愛と熱気を感じて、私たちはそれに応えて。


 アドレナリンが出まくったせいか途中の記憶がない。


 多分ミスはしてないはず。


 というか、アドレナリンのせいじゃないかも。


 これから私は大切なことを話さなきゃいけないから。


 他の人がリーダーだったら、きっと上手く話しの流れをもっていってくれたんだろうなあ。


 もしくは、同じ1期生がいれば。


 残念なことに両方無理。


 私が27人をまとめるリーダーだし、最期の1期生だもの。


 息を深く吸って、ゆっくりと吐く。


 全国ライブのオーラス。


 みんな楽しく終わりたかったよね。


 わかってるけど、ごめん。


 今日を逃したら、ファンのみんなに直接伝える機会は当分ないんだから。


 メンバーが一通り喋り終わった後、一歩前に出る。


「アンコールの前に、少しだけお話をさせてください」


 ざわつく会場。


 メンバーも戸惑ってるんだろうな。


 だって、これは事務所とプロデューサーと話し合って決めたこと。


 他の人には話していないこと。


「私たちは2014年に、6人でデビューしました。事務所の先輩方がTVで活躍する中、私たちは全然売れなくて。TVに全然出られなくて。どうして売れないんだろう

どうして、どうして……。ずっとくすぶっていました」


 胸がぎゅっと苦しくなって一呼吸おく。


 ざわざわしている会場。


 きっと私がなにを話したいのか、わかっている人は沢山いるんだろう。


 また深呼吸をして、話を続ける。



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