三六〇ノ葉 アホにトドメをば


「にい、バカ大暴走? 阿呆大行進?」


「うん。気づいて葉ちゃん、それ暴言」


 兄の不可解な行動に首を傾げたかと思ったら今度はもっと過激にいろいろ訊いた。


「葉ちゃんてばちゃーんと閨のこと勉強しているの? 主様に教えられないよ~?」


「ぎゃーっ!? なに訊いてんだっ楓この野郎! やめろーっ! 俺の葉がーっ!」


 闇樹って結構思ったことすぐ口にだすよなぁ、と聖縁が思っていると楓がバカ発言かましてくれやがった。閨の勉強をしているのか? と直球で訊き腐ったアホに聖縁が突っ込むが無視された。ええ、もう気持ちいいくらいに。スルーしやがりましたよ、楓は。


 一方の闇樹は「意味不明」と言わんばかりに訝しげな顔。いや、口元だけしか見えないけど。だけど、完全にお兄ちゃんを頭逝っちゃった、もしくはられちゃったかのように感じているのがビシバシ伝わってくる。目は口ほどに、と言うが口元も結構お喋り。


「我の仕事、色、否」


「今はね? どうすんの~? 将来に若旦那が恥かいたら。教えないと困らない?」


「……。聖縁様、申し出あれば授業は」


「いや、そうじゃなくて、実践の方!」


「にい、いつもよりさらに、下世話」


「げひげひげひひ、どうなんだぁ、葉ちゃん? 大事な主が筆おろしなしで上手に」


「最初からうまいひと、いない。誰しも教わって上手になる。聖縁様の大事、我などより愛する奥方様に捧げるべき。……にい、くだらぬこと考えるな。無駄バカ粗末思考」


「ぐふっ」


 あー、やられてしまいました楓の阿呆。だが、よくやってくれました闇樹! との思いでいっぱいの聖縁だった。してやったり、だなんて聖縁の方が思っているとくすりと笑う声。その声についぎくりとしちゃう。声は上座の方から聞こえてきた。つまり……。


「そうですか、「俺」ですか? そちらが素なのですね、聖縁殿。無理に畏まって」


「いえ、そういうことじゃなくて目上の方ですのでつい、さっきのはその……はい」


 最後まで言えなかった。謙信はけっして怖い目も恐怖な空気漏れもないものの威圧感というか、ただそこにいるだけですさまじいので委縮させられる。怒っているわけでもないのにこの圧はすごい。怒ったらどうなるのだろ……ああ、バッサリ斬られるのかな?


「あの、お気に障ったなら謝ります。けど、自分よりも長く国主として、その上、武人としても著名な謙信公に無礼があってはいけない、と変に身構えてしまいまして――」


「いいえ。そういうわけではないのです」


「え? えっと?」


「ただ、こうして気心の知れた仲の者に素顔を見せられる、のは素晴らしきことと」


 なにを言っているのかいまいちわからない。気心の知れた者に本性は普通じゃね?


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