三五八ノ葉 な、なに言いだしてんだ!?
もういっそ、らぶだ。好きです愛しています結婚し……いいえ嘘です言いすぎでしたごめんなさい。そんなこんなでとにかく闇樹のつくってくれるものに舌が慣れている。
戦忍である筈なのに家庭的で優しく温かい気持ちになれる手料理の数々。思いだしただけで涎がでそうだが堪える。急に涎だらりらしたら失礼以前に危ないひとだものね。
「ところで、葉殿はお料理なども?」
「? ええ、はい。一応万能にこなします」
「そうですか。では、酒の肴などつくっていただけませんか? それとヒジリの伝統的なお料理以上に葉殿がつくる、忍のつくる携帯食以外の食事にも大変興味があります」
「ええと、ヒジリの食事は全体的に味つけが濃いめで、葉がつくるのは薄味で真反対な味のものが並ぶある意味で奇妙な膳になるかと思いますが、それでよければ、ですが」
「構いません。食べ比べ、だなどとこれ以上ない贅沢ですから。ぜひお願いします」
「あー、はい。じゃ、葉、夕餉の手伝いというか現場の総指揮にいってくれるか?」
「諾」
一言応えて闇樹は消える。おそらく楓もいるし、部屋までの案内も誰かひとが来ると思って離れるのを承知してくれたのだろう。でなけれは心配性闇樹のことだ、絶対譲らずの姿勢で聖縁が困っても困らせたに違いない。それくらい大事にしてくれているから。
……ただ、そういえども、いまだ風呂を一緒するのはやめてほしい。あと乳報告。慣れたといえば慣れはしたが聖縁様、そこまで悟れても開けてもいないのでどうしても極楽時間が拷問のように感じられる。が、闇樹にはまだ言いだせずにいる。嗚呼、ヘタレ。
わかっているが、わかってはいるのだがそれでも言いにくいこともあるよ!? と誰かに叫んで訴えてみる。心の中で。謙信に突然、んなこと叫んだら首がどこかに飛んでいってしまう。物理的に飛んでいく。寿命さん終了しちゃう。そんなことを考えた時だ。
ぷぷっ、と聞こえたので見ると楓が聖縁の胸の内を知ってか、くつくつ笑いまくっていた。たしかに第三者視点で見ると面白いかもしれないが、バカ笑いはむかつく。だけど、謙信に誤解というか曲解されてはい、断頭台れっつらごー、は困るので指摘できん。
「楓殿は忍というより道化者に近いですね。わたくしのところの忍はこんなに笑ったりしませんから、少し新鮮です。それはそうと聖縁殿のなにがおかしいのでしょうか?」
クソっ、闇樹がいたら余裕で棍棒が楓の脳天に落下しただろうにこん畜生とか、聖縁が思っていると謙信が本当に意外そうな、珍妙なものを見たかのよう楓に訊ねていた。
「いやぁ、葉ちゃん、風呂の世話もしていると思うし、いい加減、素敵な、いいお歳頃だからいろいろと大変苦労していらっしゃっておっかしいなぁとか、俺にはそんなさーびす、特典? なんぞなかったってーのに羨ましいな祟るぞゴラァ、とか思うとつい?」
楓は一旦笑いを引っ込めて聖縁をちらりと横目で見てからさらりー、っと聖縁の抱えている複雑なお悩み様をバラし腐った。ホント、気持ちいいくらいあっさりバラした。
一瞬以上の時間、沈黙が部屋に落ちた。謙信は聖縁を見て楓を見て目をぱちくりさせていらっしゃる。ああ、変態だと思われたか、もしくはこどもですね、と思われたか?
「では、
「ぶぅーっっ!?」
噴いた。それはそれはもう盛大に噴きだしてしまいました聖縁様。い、いい、いいいいきなりなにを言っているんですかこの御方は!? なに、みんなして弄ってんの!?
聖縁の頭が謙信の言葉爆弾に爆撃され、木っ端微塵になり、思いっきり噎せてしまったのだが、謙信の方はきょとんとしてどうして聖縁が急に噎せだしたのか訝っている。
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