三五一ノ葉 布陣分析
難しい顔で「俺の感覚がおかしいのか?」と思っている聖縁をこっそり盗み見ているのが約二名。楓と謙信はふたり、お互い、聖縁の様子にくすくす笑い、相手が笑っているのに気づいてまた笑う。聖縁は気づかない。謙信の謎を考えるのに精一杯、手一杯で。
だが、聖縁とていつまでもそう難しい顔はしていない。均されていても勾配のある山道は歩くのが楽とはいかず。が、かといって難しいわけでもなく。自軍の兵は慣れさせておけば力をいかんなく発揮できそう。そして、随所に設置された陣もまた素晴らしい。
自軍の動は邪魔せず、侵入者を強固に阻む為の設計がなされている。さすがはエチゴの軍神が居城とするだけあってその防衛力の高さと兵たちの熟練度も知れるほどとはすさまじい、と言わざるをえない。だが、この設計ならば主力はなんだろう? 足軽かな?
どう考えてもこの急勾配がある山の城。重装備の兵――重兵――は動きがかなり制限され、逆に足手まといになりそう。かといって弓兵は遮蔽物が少々邪魔になる。なので、ここはやはり身動きが軽い軽装の者と、槍で間合いの外から攻撃できる者が主力だな。
「気になりますか?」
「え?」
「いえね、先ほどから難しい顔をなさっているのでわたくしのところの軍を分析なさっているのではないか、とそう思いまして。それで、なにか掴めて、わかりましたか?」
「あ、っと、その、勝手に思考どっぷり嵌まっていてすみません。えと、足軽と槍兵が主力になるのでしょうか? あとは忍たちの機動力を力の重点に置いている、とか?」
「……」
沈黙。痛いこの沈黙が怖い。が、謙信は意外な者を見たよう目をしぱしぱ、する。
なに? なんなのよ? なんなのこれこの沈黙は。息苦しいんですけど? と、聖縁が気まずそう曖昧に笑うとやっとこさ謙信が沈黙を破ってくれた。声にあるのは驚愕。
「布陣を見ただけで?」
「え? は、はい?」
「ここまでの布陣を見ただけでわたくしの軍を分析した、のですか? そこまで?」
「あの、えっと普通では? このくらいの分析はできないとうちの忍に叱られます」
普通できるだろう、とは思ったがそれだと失礼になるかと思って闇樹に叱られるから分析力を鍛えるのに勉強している云々の言い訳をつけ加えておいた。いくら謙信自らのお許しがあってもそうそう無礼と取られるような発言はできないってか怖いからしない。
謙信は聖縁の言葉にことさら驚いた様子で感心するように吐息を零した。驚きつつも感心して恐れ入って。まあ、聖縁としては彼の軍神にそんな顔されてそちらこそ怖い。
だってだって、だってさ、北国で、それ以上に戦国で知らないひとがいないほど軍を指揮し、神がかった采配を揮うとされる御人に感心されるなんてそれだけで恐ろしや。
ただ問題はこの時、闇樹から「我、だしに使うな」気配が見えたような気がする。気づかなかったフリをしておくが。いいじゃん、これくらい。と思いっきり開き直って。
そうでもしないと過緊張で頭がぱっぱらぱーになりそうなんだもの。あの軍神に驚かれるとは嬉しいやら恐ろしいやら。だが本当、闇樹に言われて勉強していてよかった。
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