捌ノ樹 エチゴ

その成長を、喜びます

三四八ノ葉 あなたの成長と無事を


 主に、主だけの武器が備わった。とても喜ばしい。ヒジリに帰ったら早速同じ型でもっと強固なつくりのものを発注しなければならない。籠手ほどいかず、でも近しきを。


 両手の攻撃力をあげた分、防御もあげておかねばならない。いわば鎧の代わりに。


 ああ、しかし、ご立派になられた。これならあの御方と会うに不足はない。かもしれないかな? と、思う。多分、きっと、もしかしたら。……信用云々ではなく心配だ。


 聖縁様は結構わたしに似てきている。嬉しいけど、怖いことだ。だって、わたしはよく楓に「葉ちゃん、礼儀とか敬意って知っていますか?」なんて訊かれてしまうから。


 なので、きっと意識していないところで楓に、歳上に対する礼儀を、親しき仲の礼も払っていない、ということなのだから。……困った。どうしよう。でももう退けない。


 予定を組んだ。楓が先行して彼の御方に謁見の申し込みをしてしまった、言った。


 だからもう、毎度、でたところ勝負悪いが、聖縁様には頑張ってもらおうと思う。


 ……まあ、たいがいにおいてそういうのが多い旅ではあったのはそうだが。いき当たりばったりというか、なんというか。その場その場で臨機応変にこなしていただいた。


 当人はさして思うことがないのか文句もおっしゃらないが、心の中ではなにをお考えなのやらと心配になる時はある。でも、それも含めてのわたしであり、聖縁様だから。


 そこを汲んで接してもらえれば一番嬉しい。彼の御方、エチゴの軍神と名高き上杉謙信公。戦の神たる毘沙門天を崇拝しておいでだと伺っている。わたしが風神かぜかみ様を崇めるように。もしくはもっと直接的に、自ら毘沙門天の生まれ変わりを名乗っているそうだ。


 まあ、所詮は噂話程度の情報だ。のであまり鵜呑みにしすぎない方がいい。故、聖縁様には伝えていない。……あとで拗ねられたらその部分だけは謝ろう、と決めている。


 それ以外は自己責任にさせていただく。もうこどもじゃない。完全に大人、というわけではないが、それでも、わらべの域はとうに抜けている。たまにものすごくガキ臭いが、稀にあなたは赤子か、と訊ねたくなる時もあるが、けど、もう島津様に認められている。


 あの一流の武士に認められているという点で、それだけで立派におとことして在れる。


 もう武将。早いものだ。あの時の意気地なしなクソガキがここまで立派になる、だなんて。……あ、これも暴言になる? どうも一番危ないのはわたしの首かもしれない。


 せめてヒジリへ無事帰還できるように我が神に祈っておいた方がいいかも。


 そんないまさらを思ったが、お覚悟を整え決めて必死の覚悟で臨んでいただこう。


 サツマを発つ時に少し「ああ、もうあそこへいくのですか」とかなんとかぼやいていらしたが聞かなかったフリをしておいた。不安はわたしも一緒だ。首の不安。無作法をしないかへの不安。だって、一言間違えてもバッサリやられてしまうかもしれないのだ。


 ……。いや、さすがにそこまで短気ではないと信じたい。なにを置いても大人の、それも軍神と偉大な誉をお受けになっていらしているのだし。神の短気などと恐ろしい。


 願わくはそのお怒りに触れませんように。


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