三四七ノ葉 いろいろとお世話になって


「ほいだらもう、戻るんね? ええんか?」


「ええ、いろいろとお世話になりました」


 翌朝、聖縁が目覚めた時、もう楓はいなくなっていた。どうやら先んじて次の、というか最後の目的地に挨拶へ赴いたよう。本当に戦闘狂の悪癖がなければ気の利くいいやつなのにね。とか思いつつ、義弘の下を訪ね、いとますることを告げると残念そうにされた。


 なので、聖縁は長居する予定じゃなくてよかったー、と心から思った。どうも義弘氏は聖縁まで獲物に認定してしまっているっぽい。おそらく、義弘が本気でやって負けた経験が少ないのだろう。負かした聖縁に一種の敬意を払って獲物認定。……嬉しくねえ。


「また、いき詰まりし時など、お世話なるやも。その折、再びよろしく願いまする」


「そん時は、葉ともってみたかぁ」


 聖縁は義弘の飽くなき戦闘狂ぶりには戦慄し、背に氷柱を突っ込まれた気分です。


 よくぞ息がありました自分! と、自分で自分に感心する。よりにもよって闇樹に挑みたいだなんて怖いもの知らず、アホにもほどがある。聖縁だったら全力で遠慮する。


 遠慮し切っておかないと死ぬ。本当の本気でまじめのマジで死ぬるぞ。聖縁が義弘おそるべし思っているのが顔にでているのか闇樹はくすっと笑って主に耳打ちで教える。


「その時、十分の九殺し、確定決定済み」


「ええっ!? ほとんど死んでんじゃん!」


「ん。聖縁様、鍛練なれど害した。許さん」


 ええぇー、と聖縁が義弘を憐れんだのは内緒の中の内緒。特大の内緒だ。だって、義弘にバレましたら失礼な、とばかりいちゃもんつけてまた死合いをさせられそうだし。


 まあ、その時は闇樹が宥めるフリして十分の九殺しにしちゃったりするのだろう。


 ああ、いやな未来絵図を聞いて想像してしまったぜ。なんて思ったが、聖縁は再び義弘に一礼し、見送り結構を告げて、屋敷をでてから溶岩地帯を抜け、海が見える丘で《風鷹ふうよう》のリンに乗った。先に乗って、次の目的地までの空路を考えている忍の手を握る。


「? 聖縁様、どうか……?」


「うん。今回も葉のお陰でなんとかなったかなって思ったからさ。ありがとう、葉」


「……っ。た、たいしたこと、否」


 そう答えつつ、指示式を組み、リンに送って飛翔を命じた闇樹の頬は真っ赤だ。主からお礼の言葉なんて畏れ多い、とかまたそんな堅っ苦しいことを考えているのだろう。


 わかりやすいコだ。そして、優しいコだった。主の為、心を鬼にして心配で息詰まり死にそうになりつつもあの決闘に手だししないでいてくれた。いや、あとで散々泣かれて怒られたし、めちゃくちゃ罵倒されまくったけど。でも、本当に、優しくていいコだ。


 さて、と聖縁は気を引き締める。次が最難関なのは闇樹情報で承知。覚悟する聖縁の両手にはあの手袋。義弘が餞別にくれた新しい武器あいぼうと共に主従はサツマをあとにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る