三四五ノ葉 手加減も情け容赦も無用
ただ、見守っている闇樹の雰囲気は「あちこち全部バカばっか」であった。楓も含めてこの場にいる男共は主も義弘もバカでいやになる。……と、まあそういったところ。
ただ、気は抜かない。有事の際はいつでも飛びだしていけるように構えている。一応主が一撃で一本を取りはしたが、義弘のこと。力尽きるまで全然戦うことをひた望む。
そういった傾向は義兄で充分、もう腹はち切れそうなくらい経験があるので、その楓以上に戦闘狂を極めている義弘はどこまで粘るかわかったものじゃない。だから不安。
聖縁の力、膂力で手足が千切れるとかそういう事態に絶対ならない。だからこそいつまでも喰らいついてきて主の手足こそ吹っ飛ばされそうな、いや~な予感がするのだ。
だが、戦いの火蓋はもう切って落とされたので全力を投じて戦ってもらって、両者痛みわけくらいで済めば充分な成果だ。まあ、聖縁も負けず嫌いなので勝てるまで
聖縁は慎重に間合いをはかり、義弘の出方を窺いつつ隙を狙う。義弘は最初の一撃がまだ痛むのか鳩尾付近をさすっていたものの、片手で巨大包丁をぶんぶん振りまわしてきて聖縁の接近を拒む。どうも聖縁の超速移動を警戒して刃の結界をつくっているよう。
だが、そんなものなんの足しにもならないぞ、というのは忍兄妹の感想。どんなに振りまわしてもそこには必ず隙ができる。その隙間を、攻めに最適の隙間を見つければ。
忍ふたりの思考が重なった瞬間、聖縁の姿が消えて、義弘の刃が宙に撥ねあがる。
聖縁の手袋に装備されている鉄が義弘の包丁の腹を殴った音がいやに大きく甲高く武道場に響き渡った。義弘は驚愕の表情。聖縁は瞳に剣を宿して一旦離れ、義弘の包丁が重力に従って落ちてきた瞬間に呼吸をあわせて取りにいってやる。俊足の超接近だった。
義弘は聖縁の非力で自身の自慢の得物が撥ねあげられたことが衝撃だったのか、反応が一瞬だけ遅れた。一瞬、それでも致命的な遅れ。次に気がついた時、聖縁は義弘の肝臓がある場所へ正確にして強烈な一撃を入れたあとだった。これには義弘も片膝をつく。
聖縁は大事を取って離れようとした。それはそう、した、に終わった。義弘の手が包丁を手放して聖縁の足を掴み、逆さ吊りにした。そして、聖縁の顔面に義弘の大きな拳骨が入った。衝撃で聖縁は輪郭がどうにかなりそうだった。が、義弘は放してくれない。
先ほどまでのお返し、とばかり片手で聖縁を吊ったまま片手でタコ殴りにかけていくではないか。聖縁側も負けじと防御と合間で応酬を行っているが、一撃一撃に含まれている重みが、拳の圧力が違って。徐々に聖縁の方に疲労とダメージの蓄積が見えてきた。
なのに、それでも、やめない。一旦止めておくべきかと楓が動きかけたが聖縁が手で制した。「まだいける」の合図。ここで手をだすのは、制止の手を伸ばすのは恥をかかせるに等しく。戦士として、男としての矜持から聖縁はできるところまでやりたいのだ。
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