三三五ノ葉 夕餉はヘンテコ海鮮丼?
「努力と無謀、違う」
「あは、島津殿のしごきはたしかに無謀の域だな、見方によれば。でも大丈夫だよ」
「……しかし、我、だって」
「大丈夫。俺だって男の子なんだから」
そう、男の子だから。見栄くらい張らせてほしい。大好きな、大切な女の子の前で格好つけてみたいじゃないか。……まあ、死んだら元も子もないのは知っているけれど。
そしていっつも闇樹に助けられてばかりなので少しくらい気張った姿を見えないながらに見てほしい。感じてほしい。知ってほしい。もうあの泣き蟲日天丸はいないのだ、ということを。そして、柊聖縁。新しい自分が、日々進歩する自分がいるということを。
心配されるうちが華だとは言うが、闇樹なのでずっと心配し続ける。だから、もう大丈夫だろうされる心配はない。なので、安心して聖縁はずっとバカとまじめをやれる。
闇樹に心配してもらいたいわけでも心すり減らしてもらいたいわけでもない。ギリギリを極めた先に新しい境地があるから。今までも、ずっとそうだった。だから、今も。
「な? ちょっと心配しすぎだ、葉は」
「……。是。もう、言わない。多罪」
もう、言わない。だが、陰ながら心配はしてくれるのだ。きっと。それが闇樹というコの習性というか、悪癖というか。心配性極まったり、というやつだ。本当、優しい。
そんな優しい闇樹から光を奪った神を呪おうかと思った時もあった。でも、できなかった。その神に、闇樹は愛されているのだから。偉大なる風の神に寵愛をいただく娘。
……。ふと不意なこと。奇妙な焦燥感に襲われる。いつか闇樹のいただく愛を闇樹もろとも奪おうとする不届きな輩が現われるのでは? という、それこそ杞憂を考えた。
闇樹を奪われる。そう考えただけで気分が悪くなる。闇樹はもう聖縁の一部、大切な影であって一番の理解者で幼馴染。それが、ある日突然、奪われる。想像だけで泣きそうになってしまう。こんなことではいけないのは重々承知。でも、怖い。失うのが怖い。
「聖縁様?」
「へ? あ、いや、なんでもない。ごめんごめん、じろじろ見ちゃ、不快、だよな」
「否。聖縁様なれば良。にい……一打決定」
「あのね、可哀想だからやめてやって?」
「アレに憐れみ不要」
「ひどっ!? 七年でお兄ちゃんへの制裁頻度と苛烈さがなんか乗倍的に跳ねあが」
「気のせい」
「コラァ! 全部言わせない時点で認めて」
「今夕、腕によりかけ、食事つくる」
話をすり替えやがった。おかしいな。聖縁に対しては厳しくも優しい天女なのに、楓が相手だと? ただただ苛烈だ。厳しいばかりだ。……ある意味、とてつもなく惨い。
まあ、聖縁に被害がないのでいいのだけど、楓がひたすらに可哀想である。最愛の妹にひどい扱いしかしてもらえないなんて。日頃の行い、と言われればそれまでだけど。
――それにしたって限度があるぞ?
「海藻、いいのが採れた。魚もいいのがあった故、海鮮丼、みたいなのつくる予定」
「みたいな、のってどういう?」
「いろいろ混ざる故」
「た、例えば……?」
「……。鮫、ウツボなど、も」
「ウツボ!? あのギザっ歯のアレか!?」
「ん。大丈夫。美味しくつくる」
「あ、はい。よろしくお願いします」
よろしく言った聖縁は頭もさげておいた。
闇樹なのでそんなひどいゲテモノ丼にはならない! と思いたいが、万が一すごい見た目のものがでてきた時にショックを受ける可能性大なので今のうちに覚悟しておく。
まさか、まさかウツボの御頭がついてはこないだろうけど……あああ、変な妄想のせいで気持ち悪くなっちゃったぁあああ! と、聖縁がじたばたしていると闇樹がすごく心配そうに窺っているのがわかったのでやめる。そして、なんでもないを気取っておく。
もう、頭の中は変な丼が出現と消失を繰り返していてなんかある種、混沌状態だ。
ってか、さらっと鮫が入ると言ったぞ。というのも思いだしてもはや想像を超えた異色丼が聖縁の脳内ではできあがっているが、言わない。肉食魚の中では頂点付近にいるブツも入った丼はきっと聖縁に精をつけてほしい、という闇樹の真心なのだから。うん。
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