三二四ノ葉 なぜか酒宴に……
「まあ、ヒジリゆうたら田舎もいいとこばい。戦も少なかと。そんでも学ぶんね?」
「だからこそ、ですね。有事に備えない阿呆は後悔もさせてもらえないと思います」
「がははっ聖縁どん、面白かぁ心意気ばい! そういうことなら任せときんしゃい」
アレから時間はあっという間にすぎていき、夕餉時。闇樹の計らいで滋養強壮にいいものと薬膳が提案され、女中たちと相談してこしらえてくれた。どれもこれも美味い。
そして、闇樹は渋ったが義弘が「これがおいの健康の秘訣ばい」言って聞かなかったので酒を許可した。傷に沁みて痛む、と闇樹は言ったが義弘は気持ちよーく無視した。
闇樹を無視できる度胸の方が怖い聖縁だが、敢えて言わず、こちらも付き合え、されたので闇樹の蜂蜜酒を今日は一対一で割ったほんのりと強めの酒にしてもらい、飲む。
義弘が飲んでいるのは澄の酒だ。たしか焼酎、とかなんとか言っていたが、闇樹によるとかなり強い酒だそうだ。楓は義弘に付き合わされているがさすがに忍。強い。いや、義母である紅に付き合うことが多くて、慣れで強くなった、とかそういうのだろうか?
義弘は気持ちよく酔っぱらっているが楓は顔色ひとつ変えない。平然と水でも飲むように強い酒を義弘にすすめられ、飲んでいる。唇には苦笑。紅にかぶる部分があるとかそんな感じ? と思って観察していると、闇樹がふたりに飲みすぎを注意にいっていた。
「
「そう言う葉は飲まんとね?」
「我、忍。いざ備え、酒気帯びない」
「楓どんは飲みよるのにか?」
「にい、アホ。我、否」
「あれれん? またもや流れ弾が?」
まったくもって。もはや流れ弾が流星群の如く楓に襲いかかっている。まあ、楓にも流れ弾の原因があるっちゃ、あるんだが。厳しい妹の前で酒をすすめられたからと飲んでいるとか。平素の戦闘狂が災いしているとか。これも一種の身からでたなんとか、だ。
聖縁がうんうん、いろいろと考えさせられる、と思っていると闇樹が戻ってきた。
そして、聖縁の乾いている盃に気づいて首を傾げてきた。「おかわりいる?」と。
――ああ、なんて可愛いんだっ!
気づくと可愛い闇樹の手には蜂蜜酒の原液が入った硝子の瓶が一本。これを水や他の酒で割ったり、もしくは氷を浮かべただけのぐい呑みに注いでゆっくりやって味わう。
聖縁的にはこちらの方が風情があると思えている。ただまあ、酒の楽しみ方なんぞひとそれぞれでいいけど。義弘のように強い酒で昂揚感をえるも一興。聖縁のように若干酒精の低いもので場の空気を肴に飲むのも一興。ただ、そこでふと思ったことがあった。
――闇樹ってそもそも酒飲めるのか?
と、まあ普段から影に徹し、一滴も舐めない少女の酒に対する耐性を考えてみる。
「聖縁様?」
「へ? あ、ああ、もう一杯もらおうかな」
「諾」
言って闇樹はさささっと酒を調合して聖縁の前にだしてくれた。サツマがいかに暑くとも夜は冷える。と、思ってのお湯割り。蜂蜜酒を湯で割ってくれただけだが美味い。
これが冬場にはありがたい。眠れない夜や仕事の合間、もう少し夜更かししたい日の供に。闇樹がつくってくれた蜂蜜酒をぐい呑みを両手に少しずつすする。最高に乙だ。
体調を崩した時にだってそう。食欲がない時は蜂蜜酒を少し舐めると不思議と粥も食べられるように。闇樹が健康を管理しているので滅多に崩すことはない。気候の急激な変化とかにはさすがに適応できず熱をだした。と、思い出を振り返りながら酒をすする。
ああ、ほっこりする~。などなど思っていると闇樹がせっせと膳を片づけはじめてくだされた。たしかにもうすっかりとっぷりと暮れている。遠く梟の声が聞こえてくる。
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