三二三ノ葉 地獄の風呂?


「ふいー、極楽ばい!」


「……楓、このひと神経死んでんじゃねえ? なんか地獄の釜みたくボゴボゴお湯」


「うん。俺もはじめて突き落とされた時、全身負傷の上に火傷した。だからあっち」


 ところ変わって義弘氏のお屋敷の中。かなり汗をかいた、いろいろな意味で汗ばんだので風呂に入ろうとなり、闇樹は男連中が風呂に入っているうちにお薬を調合するそうで珍しくついてこなかった。が、まあ楓がいるから護衛は充分と思ってくれているのだ。


 ということは今日は乳報告もなしである。よっしゃ、と思ったのと同時に残念だよよよ~ん、だなんていう心の声が聞こえたような気がした、とも思ったがこちらは黙殺。


 楓に案内されたのは気持ち小さめのお風呂。充分大きいが義弘が入っているのと比べるとだいぶ小さめにつくってある。あちらが大風呂ならこちらは庶民の風呂って感じ?


 まあ、楓とふたりでも充分な広さがあるので文句はない。思って聖縁は湯に手をそっと入れてみたが、条件反射の勢いで引っ込めた。あっつ! なんだこれ、拷問の一種?



 とか思っていると、苦笑いの楓が水を大量に足した。いや、もう埋める云々の量を超えて足した。そして、そばにある棒でザバザバ搔き混ぜてから聖縁にすすめてくれた。


「あ。普通になった」


「ええ、島津のとっつぁんに付き合ってたら全身火傷で死ぬか、皮膚が爛れますよ」


 言いつつ楓は湯につかる。聖縁も戸惑いながら湯に身を沈める。先ほどの激熱から温かいになった湯はさらりとした触り。皮膚に気持ちいい。聖縁の隣で楓は今日、というか先つけられた新しい刀傷に湯をすり込むようにかけている。治癒の効能でもあるのか?


「戦闘狂の家の風呂に引かれている湯はたいがいそういう治癒じゃないけど緩和効能があるのさ。あー、生き返るねぇ、じじ臭いけどこういう時、特に実感する。歳かな?」


「いや、お前まだ全然若いじゃん」


「若旦那ほどじゃないけどね」


「あのさ、軽く十近く違うんだぜ?」


「違う。九。勝手に増やさないでよ」


 お前は年齢を気にするおばさんか!? との突っ込みが喉まででかかったがなんとか飲み込んでおいた。でないと場合で楓の嗜虐心に火がついてしまう。しゅぼっなんてものでなくゴオオォ! と火事になる勢いで。もしもそうなったら……考えるのはよそう。


 考えただけで、一瞬ほど考えただけで恐ろしいことが脳内に発生したので以上を考えるのをやめた聖縁は湯の温度を楽しむ。楓も弛緩した顔で湯の中、のびのびしている。


 その向こうで義弘がこの上なく不思議そうに首を傾げているのも無視していいと思う多分。水を大量に足したのが不思議でならないのだ。……本当に神経が死んでないか、あのひと。とは思ったが思うだけに留め、しばらく湯を楽しんだあと、三人風呂をでた。


 すると、いい感じに薬を揃えた闇樹が待っていて戦闘狂ふたりから悲鳴を絞った。


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