三二二ノ葉 なぜ、文句?


「本日、怪我癒やす為、薬膳」


「ぬぁにぃっ!?」


「我、つくる。残す、相応処罰決定」


「……」


 闇樹の追加攻撃。いや、別に薬膳くらいでと聖縁などは思うのだが、義弘はどうも苦手らしくすごく、今もうすでに噛みしめているような、すごい顔をしていらっしゃる。


 その隣で楓も「げぇ」という顔だが、声にはださないし、極力態度にもださない。


 そんなことしたら不要なおかわりまで用意されるのは明白。てか、圧倒的現実なのでここは黙って言う通りにする。無駄な反抗などしようものならさらに上の罰がくだる。


 薬膳の顔した毒匹敵のすーぱーにはいぱーな薬膳が手配される。聖縁などはちょいちょい体調が優れない時は闇樹の愛が詰まった薬膳を食べて回復しているので全然平気。


 なので、なぜこのふたりがこうも渋い顔をするのか不明すぎてならない。……てゆうか薬膳って素材によってはかなりの贅沢な筈。それをいやがるのはなぜなのやら、だ。


「若旦那にはわかんねえよ」


「?」


「葉ちゃんの薬膳や薬が平気な若旦那にはあの独特の毒的味とにおいはわからんて」


「なんで俺は平気なんだろうね?」


「……。俺たちはさ、特に敏感なの、五感」


 ああ、なるほど。義弘は慣れがないのが手伝って。楓は忍。五感を特に鍛えているので薬膳のにおいや味が刺激最強すぎる! ということか。まあ、ヒジリの城最強な誰かさんも薬膳料理が食膳に並んだら苦い顔をしなさるらしい。が、食う。闇樹が怖いから。


 残したりしたら次の日には特盛で薬膳おんりーな膳がご用意されてしまうらしい。影和談によると。影和は薬膳など特に得手でも不得手でもないので淡々黙々と食べられる。なのでか薬膳に悪戦苦闘する秋秀を見てこっそり「いい気味」しているのを目撃した。


 いつもいつも鍛練で負けているのの仕返しが勝手にやってきているこれぞ天罰だ、とか思っていそうな悪ーい顔をしていらしたのでやはり恨みつらみ諸々チリツモな模様。


 どうして? 七年経って大人になるどころか逆になっているというか変わりなく幼稚なのは男の性ですか? いや、聖縁も幼稚な部分があるわけではない、と信じている。信じているが、時折闇樹の纏う空気感がすごく憐れみに満ちている時があるこの不思議。


 気づいていないだけで聖縁も幼稚な部分があるのだろうか? 自分のことはわからないっていうし、闇樹からしたら「嗚呼、幼稚すぎる」と嘆かわしい部分があるのかも。


「そんだら、ついてきんしゃい!」


「んえ?」


「おいどんの屋敷でまずは」


「義弘様、昼間から飲ませぬ」


「ぬぐっ、な、なしてわか」


「にい、いつも暴れんぼあと一杯欲しがる」


「あれれ、流れ弾がまたしても?」


 本当だ。楓の常を知っているので島津義弘氏の次なる言葉を予測し、ぺっちんと叩き潰していらっしゃる。そして、これまた楓にも流れ弾が飛んで心臓を撃ち抜いている。


 闇樹はヒジリに出向しているのにどうしてこう楓のことを知っているのか不思議。闇樹なので種明かしは期待できない。また「女の秘密」とかいうふざけ調子の文句で切り抜けようとなさるかもしれない。いや、アレはひょっとして突っ込み待ちなのだろうか?


 だが、聖縁は突っ込んでみる気はない。ありませんとも。そんな、恐ろしい。んなことしてなにか知れない不可思議な真実とか諸々を知ってしまったらめちゃ後悔しそう。


 だから、気づかなかったフリをしておく。多分、おそらくきっと、本当は知りたいのバレているのだろうけれど。つつく、もとい指摘しないで無視してくれるの感謝です。


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