三二一ノ葉 最強は妹様
「なぜ止めんね?」
「葉ちゃん?」
「にい、無理するダメ。義弘様、我が主の本来の目的果たすにここで死なれる困る」
なんともあっさり、死闘は終わった。
鶴の一声というが、闇樹の一声もかなりの威力があるっぽい。証拠にふたり共渋い顔をしている。も、どうやらそれぞれに闇樹の言葉に引っかかりがあるのはそうらしい。
まあ、楓も最初は穏便に交渉を持ちかけてくれたようでその為義弘には聖縁主従がなんの目的でこの遠いサツマにまでやってきたか、わかっている。覚えてはいるらしい。
ただ、楓との死闘が楽しすぎて、愉快にすぎて堪らない感じにいつの間にやらなっていたとそういうことのよう。さすがだ、闇樹。ふたりの急所を確実にぐさっと刺した。
アレだな。時として遠慮や情け容赦は要らないってののお手本的言動だ、これは。
「そこ、座れ。バカ共」
「葉ちゃん? にいたちは犬じゃ」
「ん?」
「……。イエ、なんでモ」
一言。たったの一音で楓を黙らせた闇樹はまったくしょうがないという表情で義弘の涼しそうな装束と楓の衣を再び剝いて治療していく。テキパキさっさと傷薬を塗って目の細かい綿を当てて包帯を巻いていく。ふたり、軽傷だったが、まるで西洋のお化けだ。
などと失礼を考えていると楓と目があった。男はにへっと笑って「どうよ、この本気の死闘?」というような顔をした。いや、どうもこうもなくただただ怖いんですけど。
とは思ったが、ひとつ神妙に頷いておく。為になるかどうかは別にしてこれが歴戦の武士の戦。相手役も歴戦の忍者。お互いに戦闘経験豊富なだけ戦を楽しむ余裕がある。
もしもこれが本物の戦士の証だとしたら、正直、聖縁は自信喪失もいいところだ。
こんな戦は知らない。本気で命を懸けて戦う。こんな
「島津殿」
「ん? どげんしたと?」
「その怪我がよくなったら、そしたら俺に本当の稽古をつけてくださいませんか?」
本当の、稽古。今までのがすべて偽物でごっこ遊びだったとは思わないが、それでも本当の
あのヘタレとびびりはどこへやら、で真剣に熱意をこめて頼み込んできた聖縁に義弘はほんの少々呆けて見えたが、すぐさまにかっと笑って頷き、快諾してくれたが――。
そして、今すぐにでもはじめそうな雰囲気になったのには闇樹から制裁が入る。紙のはたきがいい音立てて義弘の少し禿げあがっている頭頂部をぶっ叩いた。
今日はもう安静にするの! と、お兄ちゃんにするように叱り飛ばしている。義弘はたかが小娘だというのに相手の気迫に逆らってはいけないナニカを早々に察知した模様。
おとなしく頷いていらっしゃる。うむ、やはり闇樹は現世最強なのかもしれない。
無敵に可愛いクセ、お強くてらっしゃるのとおっそろしいお説教術をお持ちです。
いや、どちらかというと見た目の影響が大きいかな? と聖縁は分析する。ひとはまず見た目でひとを判断するものだ。闇樹の儚い見た目では到底強者だという認識をしにくい。例え楓が自分以上にアレなんで、と主張しても闇樹は戦闘狂じゃない上に女の子だ。
だから冗句として流される。まさに正しく「まっさか~あっはっは!」な感じに。
聖縁としては闇樹以上に怖い存在はないと思っているのだが、それが他人に伝わることは永劫ない。知っているとして闇樹の苛烈さに遭ったことがある者のみ。例えばシンシュウにいる姓にも名にも「さ」がつく誰かさん。彼に闇樹がくだした制裁はマジ恐怖。
下剤地獄というか、罰茶という名の最強下剤の上に尻と腹への攻撃という三連撃。特に尻への一撃はクナイの尻だったにせよ凶器利用していたので最凶。思いだしただけでぶるえる。震える、ではない。ぶるぶるしてしまう。よってぶるえる、という造言使用。
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