三二〇ノ葉 戦闘狂対戦闘狂


「とっつぁん、俺ってば忍よ? 虚空瞬動くらいちょちょいのちょいだってーの♪」


「はじめて聞くばっ! 忍として秘密の体捌きのすべ隠し持っとぉたあ性質悪かーっ」


「とっつぁんのマジ急所狙いよかましだよ」


「がははははっ、そげんね! やっぱり決闘いうたらこうでならなば楽しくなか!」


「付き合わされる身にもなってよ……」


 やはりげっそり感が多大に多分にただよっている楓だが、戦闘中はなんだかんだで目が生き生きしているので楽しみつつ、ギリギリすぎが恐ろしいと戦々恐々状態らしい。


 聖縁はふたりのやりあいに口ぽかん。もはや勉強という尺にはまらない実戦も実戦すぎる決闘から学べるものはたしかにたくさんあるだろうが、ちょっと刺激が強すぎる。


 ふと、気を抜いたらちびっちまいそうなくらい苛烈で熾烈で強烈で。烈がすぎる。


 ただ、その中で気になった単語があったので隣にいる闇樹の袖をくいくい引っ張ってみる。すると、闇樹はすぐ拝聴の姿勢になって聖縁のそばで膝をついて構えてくれた。


 うーん、従者の鏡だな。兄貴の扱いは惨いがやはり闇樹の姿勢は見習わねばと思う部分が多い。このふたりの趣味嗜好丸だし決闘より闇樹観察している方がいい気がする。


「こくうしゅんどう、って?」


「瞬動術。鍛練にてえられる気、足下溜めて仮の足場をつくる術。これ、蹴立てて瞬間的移動、叶える。虚空瞬動は文字書いてそのまま、虚空を蹴立てること可能にする技」


「えっと、もしかして空中でも自在に?」


「是。地上より自由度は落ちれど空の敵にも対せる。忍、時に凧で空から攻撃する」


「へ、へー」


「利点様々。先のにいのよう、身動き取れぬ空中でも移動できる。大きな有利える」


「……。もう、なんでもありだな」


 そう、もうなんでもあり。なんというかあまりにも自由すぎて怖いし。……ただ、これが忍を重用する理由のひとつになっているんだろうかな、とは考えられた。これが。


 多分、闇樹の口ぶりからして使えるのは一部の忍、上位の忍、上忍以上の者に限ったことなのかもしれない。それでも、こうした超常の心技体を持つからこそ忍は戦の重要な戦力であり、いざとなれば捨て石にできる便利な駒、なんだ。人間であり人間でない。


 ただの人間に許された体術を軽々と超越し、冷たく凍えるような、血が凍っているかのような冷酷な判断をくだせる。仲間の死すら踏み台にして目的を達成する鋼の意思。


 普通の精神では無理だ。心が死ぬ。上忍の楓がそうなのだ。闇樹は、彼女はもっと残酷な決断を今までくだして過酷な戦場いくさばを生き残ってきたのだろうか。……心が、痛い。


 泣いてしまいそうだ。楓はなんとなくどうでもいいは怒られそうだが、闇樹の今までを思うと涙がでそう。盲の身で休みもなく戦場に駆りだされてきた。里の者たちの悪意によって。長たるくれないが黙認というか見て見ぬフリ、試練で無視していたとしても悲しい。


 だけど、きっと闇樹には伝わらない。彼女の中にあるのは聖縁のことだけ。昔は拾ってくれた紅の為に、だったのだろうが、今はもう聖縁の為、その為だけに闇樹は在る。


 そんな、当たり前にしてはいけない当たり前が悲しい。ただ、今は感傷にひたっている場合ではない。目の前で繰り広げられる激烈な死闘をしっかり見て勉強しなければ。


 思っている間に死闘は最終局面にいたった。双方浅くも多くの怪我を負っていた。


 義弘は楽しそうにしつつも肩で息をしている。楓は息こそ乱れていなくても怪我の痛みのせいか動きがいつもより鈍い気がする。なのに、お互い目が生き生きと輝き、至福の時を味わっているかのような顔をしているこの不思議。なに、このすげー変態共……。


「それまで」


 義弘と楓。ふたりの戦闘狂が再び武器を握り直して振りかぶった瞬間、声が響く。


 可憐な鈴を転がす声。闇樹がふたりを止めに間に入っていた。あれ、いつの間に?


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