三一九ノ葉 流れ弾死合い
多分だが、闇樹は自分が聖縁に恨みなど持つ筈ないとわかり切っているのになにを意味のわからないことを言っていらっしゃるのだろう? なーんて感じなのだろう。しっかーし! かなり確実に恨みがあるとしか思えない。こんなの試練ですらないだろう!?
あの楓が大怪我を負わされるような相手に聖縁が敵うなどと妄想も甚だしい。場合もクソもなく即殺されて墓に、土中に入ることになると決まっている。つか、墓穴掘り。
なのに、なのに遠慮無用ってどう考えても「恨みつらみを島津氏に晴らしてもらおう計画」としか思えんぞ。闇樹の発言に聖縁は本気で殺意を覚えられる真似をしたか心配になったがどんなに記憶を手繰ってみても思い当たらない。じゃ、なに命懸けの試練か?
冗談だ、そう、冗談。と思っても闇樹は言葉を撤回しない。相変わらず不思議そうな顔で聖縁を窺っている。いや、見えてないけど、気配だけだろうが、そんな雰囲気だ。
そして、ぐいぐいと聖縁の背を押して早く自分の口で稽古を頼みなさいしてくる。いやいやいや、マジか? 本気か、闇樹さん? 本当に本当にぶっ殺、て思っていない?
「こげんこつで尻込みしとりゃあヘタレもいいとこばい! んだらば、まずはおいどんと楓どんの決闘でも見ていきんしゃい! 楓どん! 今日も楽しんで
「あるぇーっ!? まさかの流れ弾ー!?」
ホント。いきなり流れ弾よろしく標的認定された楓がついだろうが、数歩後退りかけてすぐ闇樹に尻キックを喰らって前にだされた。うん、可哀想。楓は真新しい傷を結構多く負っていた。ので、おそらく彼の、島津氏の暇潰しに毎日付き合わされているのだ。
それで薬も、その材料も底をついてしまった、と。そういうことなのだろうか? 聖縁が楓ごめん、思っている間も楓は闇樹に尻を蹴られまくって前に押しだされている。
早く手本を見せて差しあげろ。ということなのだろうが、あの楓が冷や汗をかいているのできっと島津氏の言う決闘とは本気で命を質に入れた殺しあい。んなもの見せられても、とは思ったがここで口をだすと、じゃあ、稽古? と無自覚なトドメを刺される。
なので、ここはだんまりに限ろう。
「痛っ、痛い、葉ちゃん! なにさ、どうしてなにかとにいを犠牲にするかな!?」
「面目躍如」
「違うっ!? それ使いどころ違うよ、葉ちゃん!? 盛大に間違っていますよ!」
「つべこべ言うな。うるさい」
「冷たっ!?」
いやぁ、マジで闇樹はお兄ちゃんをどう思ってどんな扱いが相応しいとご認識で?
考えさせられるな、本当。いや、ホントの本当にひどいっつーか、すんげー惨い。
「いやぁ、楓どんが来てから退屈せんばい」
「だろうね!!」
もはやこれって、てゆか、ただたんに生贄じゃん。と、聖縁が思ったところでようやく楓が無駄な抵抗をやめて進みでた。手にはすでに愛用の槍を握っている。すると、呼応するよう義弘も武器を構えた。巨大な包丁。それが彼の得物を見ての第一印象だった。
楓はすでにげっそりした顔でいるはいるが、目だけは鋭く、細められた双眸が義弘の動きに注意を払っている。そして、それは唐突にはじまった。槍と包丁の激突。あまりの勢いと衝撃に聖縁は顔の前に腕をやったが、ふたりを見つめ続ける。すさまじかった。
楓の剛槍に勝るとも劣らぬアレは剛剣、としてもいいのか。とにかく、ふたりの打ちあいは半端なものではなくて。楓の隻腕でだされているとは思えない強烈な刺突の一撃を義弘は包丁の腹で受けてそのまま滑るように楓に切りかかる。楓は槍を盾にして凌ぐ。
楓の槍は円錐形の刃が特徴で受け損ねたら即死だが、楓は槍を己の意のままに操って再び攻勢に転じる。義弘の包丁、その峰を踏んで相手がわずかに体勢を崩したのを狙って上空からの振りおろし。だが、義弘は楓に踏まれた得物を振りあげて楓を吹っ飛ばす。
楓が宙を舞う。着地する瞬間を狙って義弘が武器を振り抜く。それは空を切った。
楓はどういう手品か、宙を蹴って間を絶妙にずらし着地。意地悪な笑みを見せる。
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