三一八ノ葉 あれあるぇー?
まあ、闇樹に自覚がないのがまた困りものなのだけど。自覚してやってくれ~。憐れすぎるだろうよ、さすがに。こんな大怪我負って会ってくれるように交渉を……アレ?
「もしもし、楓さんやい」
「ん? なんだい、若旦那?」
「交渉は、お話を聞くことは」
「……てへぺろ?」
楓の返答を聞いた瞬間、聖縁の足下がガラガラガラーっと盛大に崩れる音がした。
てへ? って、てへぺろ、な場合じゃねえだろ思った聖縁が大急ぎで止まろうとしたが闇樹がなぜか背を押してくる。いや、ちょ、なになになぜに!? なぜ楓の発言を聞いていて押す? どー考えても危険な橋渡りどころか橋があるかも怪しいじゃねえか!?
「若旦那、いつまでもこどもじゃないんだし交渉くらい自分でしなさいって愛の鞭」
「お前がしくじったのに俺にできるか!?」
まったくもって。楓は戦時にこそ戦闘狂を発揮してまわりみなみな様に多大なるご迷惑をおかけするが、それ以外では至極真っ当で普通、というか当たりは柔らかい方だ。
なのに、その猫かぶり楓の本質を一目で見抜いてマジ決闘を交渉代わりに持ちかけたような人物がどんなかなど想像するのもいや。そして自力交渉なんてもってのほかだ。
怖すぎる。聖縁に襲いかかることはないと思いたいが、それでも万が一があるし。あってほしくないけどそういうのに限って必ずある。お約束、だよん♪ という感じに。
まっこといやな世の中の仕組みだ。廃れて滅びちまえというか滅亡しろ、そんなお約束は。などと聖縁が無意味に抵抗を心の中でだけしていると先までのところとは比べものにならないくらい暑い場所に連行された。赤黒いドロドロしたものが煙をあげている。
ボゴッと音がして深紅のあぶくが弾ける。ヒジリではまず見ないのでこれが溶岩というやつなのかな。溶けた岩とはよく言ったもの、だが、これはどちらかというと鉄だ。
冷やしたらどうなるのだ? 鉄もあまり急激に冷やしたらいけないらしいが……。
「遅かばい! 楓どん」
「とっつぁん、俺は無敵超人じゃないんよ? アンタのお陰でひどい目に遭ったわ」
「そげん言うと、そこの女童が自慢の妹さんか? と、ならばぁ、そこが小童がヒジリの次期当主、柊聖縁どんか? こま! こまかーっ! 豆みちゃあばいなっはっは!」
「楓、訳して? どんってなに? 丼?」
「はいはい。現実を見ようね、若旦那」
見たくねえから見ないフリしてんだよ。の突っ込みは控えた。だって、場合で甘えるなする忍がいるんだもの。ちょっと現実逃避してもいいじゃん、とか思ってしまって。
思っちゃうんです。だって、楓がとっつぁんと言った、呼んだ御人のなんと豪快な様相か。これぞまさにまさしく正真正銘の戦闘狂に相応しい見た目だろうなと思われる。
四角い蟷螂のような顔。厳めしい顔に似合いの鋭い双眸。体は縦にというより横に大きい印象を受ける。がっちりどっしりとしていて、元親とは別の意味で強靭に見える。
特に足腰は他に比べられるひとを知らないくらいがっしりしている。肩から腕にかけてもそうだが、日頃にどういう鍛練をしたからこんな筋骨隆々を形にしたようになる?
歳の頃はたしかに楓がとっつぁん、なんて言うくらいの中年ほどだが、いかんせん迫力のせいか、もっとずっと若く見える。いや、てか、無駄に無意味に迫力あって怖い。
だが、まだ甘かった。おそらくでも確実に島津義弘、と思しき男性の次なる言葉に聖縁はここはもしや夢の世界? と現実逃避も甚だしく目がくたばってしまったからだ。
「で? おいどんに稽古つけてほしかね?」
「いいえ。全力で遠慮し」
「是。遠慮無用。お頼みしたい」
「葉さん!? 実は俺に恨みがあるのっ?」
「?
首こてん。闇樹は心底疑問。といった具合に首傾げて訊き返してきやがりました。
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