三一三ノ葉 君にあわせたよ


「ほいっちにーさーんし!」


「聖縁様、騒がしい」


「すんまっせん。けど、なんか、淋しくてさ。弥三郎があんな悲しそうな顔したせ」


「ひとのせい、しない」


「はい。どうもすみません」


 翌日正午のちょっと前。ヒジリ主従が変な会話をしていた。正確には闇樹は聖縁に騒がしいだの自分の悲哀をひとのお顔のせいになんてしてはいけませんとお説教をしている。聖縁は変な掛け声で準備体操したり、謝ったりしている。その聖縁はこそり考える。


 聖縁は計画していた。この組手が終わったら弥三郎とはお別れだな、と。昨日のうちにサツマを視察しにいっていた楓から文が届いたのがきっかけであり、決定打だった。


 なんとかかんとかサツマのお偉いである島津というひとに話を通せた。とあった。


 あの楓が交渉に苦戦したようなひと、どんなひとなんだろう、と思っている、と聖縁の後ろで砂を踏む音が聞こえてきた。一歩、一歩、なにかを踏みしめるような足取り。


 どうやら、彼の方も気がついていたらしいことに聖縁は苦笑。お互いにお別れが淋しいなんて女々しいふたりだな、と思って振り向くと弥三郎が立っていた。少年の目元はかすかに赤を帯びている。この程度で泣くなよ、と思ったがまあ、指摘しないでやろう。


「よ、種目は決まった?」


「うん。聖縁、君は僕に体術の素養があるって、そう言ってくれたよね? だから、そんな君と戦うなら純粋体術しかないって思ったんだ。体術で本組手、お願いできる?」


「いいよ。今日は加減なしだ。弥さ」


「元親」


「ん?」


「昨日、父上が元服させてくれたんだ。もうすでに元服している君と対等に戦うのに幼名のままなのは気が引ける、もとい、手加減を頼んでしまうようなものだって言われたから。だから、僕はもう元親だよ、聖縁。長曾我部の、元親になった。なれ、たんだよ」


「……へー、いい覚悟じゃん」


 不敵に笑っていい覚悟だ、と弥三郎改め元親ににっと笑みを見せた聖縁は袖を紐で簡単に留めて屈伸し、構えた。元親も軽装の袖を紐で留めて構える。審判は常通り闇樹。


 ふたり、楽しかった思い出が走馬灯のように流れていくのを、それを互いの目に見てしまい苦笑しちまった。女々しいのはお互い様だったのかもしれない、とそう考えて。


「はじめ」


 そうしてふたりが互いの女々しい部分をおかしく思っていると闇樹がふたりの間に立って手を上に伸ばし、構えろと合図したのでふたりは自分の構えを再確認。頷いて闇樹にいつでもいい、と返す。承った闇樹は一呼吸ほど置き、はじめ、と宣言したのだった。


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