三一一ノ葉 筋力増強に着手


「うぎぎぎぎ……っ」


「おーい、一回もこなせないのかー?」


「ぅえっと、こ、う……?」


「はいはい。それは両腕の幅を狭くしすぎ。腕に効くだけだから失格。もっと広く」


「ぇえ? こ、こう? こ、ぐっ、ぐふっ」


 あ、死んだ。と思った聖縁だが、甘やかさない。倒れた少年、弥三郎のそばにいって頭をぺしぺし叩いて「さっさと起きろよ」する。これに弥三郎は涙目で起きあがった。


 聖縁は可哀想なコ見る目で弥三郎を見て手をぱんぱんと打ってもう一度だけ手本を見せるのに腕立て伏せで胸筋を鍛える時の格好をしてみせた。そのままゆっくり時間をかけて腕を曲げ伸ばしする。あくまでも姿勢を大切に。証拠に聖縁の背は一枚板のようだ。


 弥三郎は聖縁をしっかりと観察し、注意点を自分の脳味噌に叩き込み再挑戦する。


 今日は本格的に組む為の体力づくりをはじめることにヒジリ主従会議で決まったのでそのように支度運んでいるのだが、弥三郎は図体に似合わずこういうのが苦手らしい。


 柔軟を難なくこなしていたので大丈夫だろうと思っていたのだが、早速予定が狂ったので聖縁は苦笑い。が、放りださず。弥三郎の格好を細かく採点してひとつ頷き、合格をだしてくれたので弥三郎はやっと胸筋の筋肉増強鍛練をはじめる。すごく苦痛な顔で。


 聖縁もはじめて筋力増強鍛練をした時は正しい格好を正すのに一日以上使ったし。


 なので、弥三郎もこの先、他の箇所を鍛える度に時間を喰うだろう。まあ、それも経験ってことで思い出にでもしてくれればいい。苦しそうに腕を曲げ伸ばしする弥三郎。


 彼の額や顔、首には玉の汗。最初の目標は二十回だが、五回こなした時点で弥三郎の目が語る。「無理無理、もう無理!」と。これを見て聖縁はおいおい、と頭を抱えた。


「お座敷遊びに明け暮れすぎたな」


「う、ん。そう、だ、ね」


「まあ、無理して死んでもらっても困るし、胸筋はこれくらいで許してやろう。それじゃあ、次は背筋運動をして、腹筋が終わったらちょっと休憩していいよ。で、あとは」


「聖縁! それ僕ホントに死んじゃう!」


「この程度で死ぬか。男だろ。踏ん張れ」


 無情な宣告をして聖縁は自分も筋力増強の運動をはじめる。今日の予定一覧は足腰を中心にしたものだ。空気椅子にゆっくり腰掛けては立ちあがったり、走り込みをする。


 あとは柔軟で股関節の可動域をできるだけ増やし、体の柔軟性を高めて怪我防止に繫げるようしてみたり。と、多彩に自分鍛練をしていく聖縁を弥三郎は涙目で見てしまうものの言われたことをできる範囲内でこなす。背も腹も闇樹に何度も格好を修正された。


 そして、じわじわ自分を嬲るように効かせていく。――これ、僕ってばいったいなんのというかどんな被虐をしているのだろう、と弥三郎が思ってしまったのは仕方ない。


「終わった?」


「なん、とか……はぁ、ふう」


「じゃ、ちょっと息抜きってことで」


「? え、なに?」


「トサの名物とかいろいろ案内して」


 その瞬間、弥三郎の目が確実にくたばってしまったのが目に見えてわかった。鍛練で疲れたところに息抜き、と言ったが、観光案内ってそれはなんという追い討ちだろう?


 と、まあ、思っているのがすんげぇよくわかる顔でいるが聖縁は勉強に来ているのだから鍛練の監督と引き換えにあるべき当然の権利だ、と思っているので取りさげない。


 期待顔で鍛練によりくたばり半分弥三郎をじーっと見つめる。弥三郎としては今日のところはもう休みたいくらい体が、上半身が悲鳴をあげているので断りたいところだが、なんだか知らない魔力的なものを疑うくらい聖縁の願いは蹴りにくい。なので、頷く。


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