三一〇ノ葉 くのいち、ふと思いだす
そのあとは、寝る時間まで読書の時間だ。弥三郎は運動して想像以上に疲れていることにこの時になってようやく気づいたのか、大欠伸。聖縁はくすくす笑っていたが、しょうがないので今日は早めに休もう、と提案し、自分で敷いた布団にもぐって即行寝た。
弥三郎は自分の大欠伸で気を遣わせたかな、と気にしている様子だったが闇樹が首を振って「大丈夫」したので安心して自分も自力で敷いた布団に入ってすぐ睡魔に敗北。
少年ふたりの寝息が聞こえる部屋の灯りを消して闇樹は万全の態勢で守りに入る。
万が一、と言うが本当の万が一とは一の一で起こることがほとんどなのでどんな時も抜かりなく守護を固める。闇樹など十日ばかりは不眠不休で働けると宣言したが聖縁、当時の日天丸が闇樹のとんでも不健康生活を叱ってきちんと休息し、眠れ! と命じた。
その時のことを思いだし、闇樹はくすっと笑ってしまった。闇樹のことを大事に考えてくれる聖縁のことが闇樹は大好きだ。だったから、大事な主を守りたい、と気持ちに拍車がかかるのに主は闇樹の無茶クソな生活を許さず、人間的に生活をせい、と言った。
そんなことを言ってくれたのは聖縁が、日天丸がはじめてで最初は戸惑ったもの。
だが、闇樹もそれが、自分の不健康生活が主にかえって気を遣わせたり、心配をかけると知ってから改めるようにしている。睡眠は一刻ほど。空が白んで聖縁の眠りが浅くなりはじめた時から。食事も聖縁たちが他のことをしている時にもしゃもしゃいただく。
そして、それ以外の時間も主が読書している時間は自分の課題に費やす。できるだけ聖縁と同じ時間をすごしたい。その一心だった。だって、闇樹は、自分はいつか……。
そんなことを今から気にしても仕方がないとわかっているが、考えてしまう闇樹は「困ったバカアホ。我、滅しろ。愚か思考も」とか思ったりしている今日この頃である。
「聖縁様……――」
聖縁はいつも闇樹に堅すぎると言ったり、背負い込みすぎだとか思い詰めるな、と言って励ましてくれる。それが今、闇樹を支えているものの一番にくるものである。聖縁の優しさが嬉しい。温かさが心地いい。心までしっかりとひたひたするまで満たされる。
最初、ヒジリに出向するのは不安だった。これからひとりの主に命を捧げる。紅はどうするのかは自分で最終決定しろ、と言ってくれた。が、義母であり、人生を懸けても敵わぬ師匠がせっかくすすめてくれた就職先を蹴ることなど闇樹には到底できなかった。
適度に緊張して赴いたそこで出会った少年は闇樹の予想を超えたクソガキだった。
闇樹を平然と貶してきた。これでは里にずっと押し込められているのと変わりないなと思ったが耐えた。いつか、このコの傲慢が終わる時がくる。そう、信じて。ただ、結局義兄が余計なことを言って解決してしまったのだが。よかったのか、悪かったやらだ。
ただ、今は幸せ。だから良、思って闇樹も眠りにつきはじめる。新しい日の出だ。
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