三〇九ノ葉 新しい著書を読んで


 トゲトゲしていたり、イボイボがもっさりだったりしている。そして、聖縁は読みはじめてすぐ気づいた。これは今闇樹が勉強している本の一部著書である、というのに。


 なにしろ、あちこちに走り書き加えられている。聖縁が不気味だー、と思ったトゲトゲ植物はアロエベラといって、キンキンに冷やして皮を剝ぎ、火傷の患部に貼ると痛みと赤みが早く引く。とかイボイボの方は「夏バテに、良?」となぜか疑問が書いてある。


 おそらく、夏バテに効くかも、と思いかけてそういえば北方の国であるヒジリでは滅多に暑さでバテることがないことに途中で気づいたのだろうな。まあ、遠い未来にバテ患者がいたら参考にしよう、というので一応勉強している臭い。いやまあ、うん。えー?


 夏バテに効くってナニする、コレ? と聖縁が思ったのは内緒でもなんでもない。


 瓜、苦瓜と書いてあったからだ。もしくはその国ではゴーヤーとも言うらしいのだが問題はそこじゃない。瓜ってことは食べるのか? え、これ、このイボイボ食べるの?


「? わあっ!?」


「んえ?」


「んえ、じゃないって! い、いったいいつ入ったのさ、聖縁!? 驚くじゃん!」


「んなもん、お前が熱中しすぎていたのが悪いんだろ? で、その本面白いのか?」


「ぅぐ、え、あの、その、人形遊びも好きだったからその仕掛けを勉強できて……」


「ふーん。俺はそういう関係はあまり得意じゃないなぁ。どっちかってーと植物だ」


「え? ああ、そういえばそういう本が多いよね、聖縁の課題著書。どう、して?」


「うん。薬代わりになる植物も多いし、他にも茸とか勉強しておくと山での合戦時に役立つかなって思ってそういうふうな準備をしてもらっているんだ。薬草探しに役立つ」


「へー。そっか。ヒジリって海も近いけど山も多いんだよね? この本にあったよ」


 この本、と言って弥三郎が取ったのは聖縁も読んだことがある各国情報誌な一冊。


 各所、観光地を記載しているだけでなく、国の特色も記している本なのでいざ遠方国との戦となっても地形風土の把握に役立つ筈、というので闇樹が用意してくれたのだ。


 まあ、ヒジリはそこほど載っていないんだけど。そのことを弥三郎がどう思ったかしれないが、彼はちらちらと聖縁を窺っているので多分訊いても大丈夫か心配している。


 トサの記載はあるのにヒジリがあまり載っていない。この差別を聖縁がどう思っているのかというのと、もし気にしていて琴線に障ったりするのは気が引ける。なーんて思っているのが顔にでている。こいつも闇樹とは少し違った意味ではあるが素直なやつめ。


 そうこう考えながら聖縁は読書に戻っていく。そしてものの数十分で読み終えてしまった。なかなか興味深い植物が多い。もし、弥三郎が立派な海の男になって航海ができるようになったらぜひとも彼の船に乗って琉球王国とやらに遊びにいってみたいものだ。


 絶対に楽しいし、面白い。ふたりと闇樹とで王に謁見。ぜひ国中を散歩させてくれと頼む。で、楽しくお散歩するのだ。まあ、闇樹の書き込みによると危険生物もいるが。


 そんなんどこの国いっても一緒だ。いちいち気にしても。と、聖縁は適当決着し、弥三郎が今の本を読み終わるのを待って一緒に蒸し風呂に入ってから夕餉をいただいた。


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