三〇八ノ葉 珍しい上に可愛いよ、このコ!
「聖縁様……我」
「謝るなよ? 怒るぞ、本当に」
「……。勉強不足だった、変わりなし」
「葉……」
「アカエイ、知っていれば、よかった」
「それももうすぎたことでもしもはあとからくるものだろ? 自分を追い詰めるな」
「……是。……聖縁様っ」
「ん?」
そろそろ物思いに耽るのも鍛練も切りあげよう、そう思って今いる場所を簡単に手拭いで掃除し、闇樹が新しくくれた方の布で顔や首の汗を拭う聖縁に闇樹はらしくない声で呼びかけた。まるで、遠く去っていくひとを呼び止めるような声に聖縁は首を傾げる。
「……ぁ」
「どうした?」
「あり、がとうご、ざいます」
「! ホント、どした? 多謝は封印か?」
「聖縁様、我、堅物すぎる、言う。故……」
「あー。それで?」
「……」
聖縁が納得したように声をあげると闇樹はボっと真っ赤になった。……どうしよ。
可愛い。いつものに上乗せで可愛い。てか、可愛すぎる。聖縁は必死で理性様に「お待ちなすって!」する。本能のままに、衝動のままに動けたら聖縁は闇樹を撫でくりまわしている。だが、そんなことをすれば……。……。考えるのは、想像するのはよそう。
それくらい、以前紅が楓にくだした制裁跡図に楓はちょっと齧っている異国語で「すぷらったほらー」と。とっても凄惨だったんだ、と綴り、聖縁に教えてくれたが、それと同じ状況が起こりそうな予感がする聖縁は必死で理性様を鞭打って命懸けで働かせる。
ああ、それなのに、闇樹ときたら聖縁が「可愛いなこん畜生ー」と思っていると知らないので普段ならしないのに、こういう時に限って頬を淡く赤に染めてもじもじし、恥ずかしそうに俯きがちになっている。これはなに? 新手の拷問デスカ? ソウデショ?
もはや理性様の制御門も限界です。思ったが、闇樹の方が先に参ったして消えた。
聖縁は闇樹が去ってくれて助かったようなもったいなかったような複雑気分。できればもう少しかんわい~い闇樹を独り占めしていたかった~、とか思ったりしたりして。
なんだかんだで闇樹は照れ屋さんだからな、いや、いいもの見た。とか思いつつ、聖縁も武道場をあとにし、弥三郎の部屋に顔をだした。弥三郎は本に没頭している模様。
……。ここで悪戯をしたくなるのは日天丸時代から受け継がれる悪癖だな思った。
が、せず。ひとが一生懸命勉強しているのに邪魔する真似をするなど死罪ものだ。
「……」
だが、それにしてもほぼ無音で入ったにしても気づかなさすぎる。これは刺客を手配されたら怖い。自分が好きなものに熱中。没頭し、集中するあまり暗殺事件とか起こったらヤバい。まあ、弥三郎イコールで姫若子だと諸国が思い込んでいればまずないけど。
そう、思い込み。今まではたしかに姫のような若だったかもしれないが、彼は今現在進行形で変わりつつある。武の稽古然り、知識の貯金然り。蓄えた知恵は財産も同然。
だが、多分でもきっと元就のようにはならないというかなれないであろう。今彼が読んでいる本からしても。なにか、なんだろう、最新式の絡繰り道具を生みだしそうだ。
本の題「一歩進んで絡繰り天国」という、今ひとつ意味のわからんものをこんなにも熱心に読んでいるのだ。巨大な絡繰りを生みだしてそれに搭乗し、敵兵を蹴散らし……アホなこと考えてないで自分も読書しよ。と聖縁が思うと同時に闇樹が本を差しだした。
まだ頬は薄紅色。可愛い。と、思ったのが表情にでてしまったのか、闇樹の顔の赤がさらに深くなり、彼女は突風もびっくりな速度で消えた。無音で。これもまた可愛い。
まあ、闇樹の可愛いは今にはじまったことじゃないので置いておいて、聖縁は闇樹がくれた本を読みはじめる。本の題には「異国の植物」と書いてあり、闇樹の木簡一枚が挟んであった。「異国の植物、薬代わりにすることある。故、参考なる、思う」とある。
改めて参考著作の欄を見てみると琉球王国、もしくはレキオ、という国の植物を主に参照した本であるっぽいが、ずいぶんとまた、不気味植物が多いな、おい。と思った。
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