第27話 告白と選択
――やっと言えた!
好きな人に告白した直後の感情を、千夜は姉や友人の話を聞いて知るだけだった。
『ドキドキした!』
『顔から火が出そう』
『すっきりしたぁ……』
思い返す彼女達の感想の中に、今の自分の心の状態と、全く同じものはあるのだろうか。
――嬉しい……私、伝えられたんだ。ちゃんと好きって、言うことができた
他人の心情の深い場所まで知ることはできない。しかし一つ確実に言えることは、千夜は深い喜びの中に身を投じたということだ。想いを言葉にして伝えられた事実を胸に、清々しさと昂りを感じていた。
「好き……好き。ギーくんが好き……大好き」
一度外れた堰は、なかなか戻すことができない。千夜の口は、愛を伝える言葉で決壊を起こしていた。
抱きしめられる腕に一段と力が加わり、そして緩められる。ギーの顔が見える程度に距離を取り戻した千夜の目は、すっかり赤面した彼をとらえたのだった。まるで酒でヘロヘロになっている時の、美紀の顔を彷彿とさせる赤さだった。
「もうとりあえず止まって、千夜ちゃん」
「照れてるの?」
「て、照れるよ! 照れるに決まってるでしょ!」
「嬉しくない?」
「そんなはずない!」
力を緩めはしたものの、千夜の身体はまだギーの腕の中にあった。
「じゃあ笑って?」
見上げた千夜の目と、見下ろすギーの視線がぶつかった。
「好きの対象……チョコと間違えてない?」
「何言ってるの。チョコのことじゃないよ。私はギーくんが好きなの。私の心を貰って欲しい……こう言えば伝わる?」
「千夜ちゃん……」
はっきりした返事の代わりに、ギーは再び腕の中の少女を抱きしめていた。ふわりと香るのは、チョコレートの香りではなく、人の香りだ。
「……それで、選択肢だけど。②番にしよう」
愛の告白直後にしては、千夜の口調は落ち着き払っていた。それが彼女の性質なのだということをギーは理解していたが、それにしたって今聞こえてきた言葉は納得し難い。
「なんで? 千夜ちゃんも俺のこと好きなら、もう③しかなくない?」
身体はくっつけたまま反論する。腕の中で千夜がもぞもぞと身を捩っているが、ギーに力を緩める気はなかった。
「家族と離れ離れになっちゃう。友達とも……きっとギーくんには、エスリに大切な人が沢山いるでしょ?」
声はくぐもっていたが、震えていない。千夜はきっと、イトウから最初に選択肢を提示された時から、どれを選ぶべきか決めていたのだ。
「千夜ちゃん以上に大切な人は作れない」
「③番じゃギーくんが失うものが多すぎる」
「②じゃ俺たち、ずっと会えなくなっちゃうんだよ?」
「……それでもギーくんのことを忘れるよりも、ずっといい」
「俺を思い出にしないで。一緒にいようよ」
「寿命だって短くなっちゃう。それって、とても怖いことなんじゃないの?」
「言ったはずだ。千夜ちゃんと一緒に生きていけるなら、短命になっても構わないって」
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