第28話 エネルギー
お互いに相手を納得させようと千夜とギーが躍起になっている横で、ギーの家族の反応はせわしなかった。
千夜がギーに想いを告げ、二人が抱き合っている間。彼らは口笛を吹きながら、邪魔にならない程度に
三つの選択肢のうちどれを選ぶのか二人が揉めはじめた時には、固唾をのんで見守った。
そして今。
「おい。なあ、見えるか? 千夜ちゃんの周り……」
フィーは隣の妹を肘でつつきながら、千夜を指し示した。
ミィも兄と同じものに注目していたらしい。目線はそらさずに、すぐに頷きを返した。
「アタシ初めて見る! 綺麗だねえ」
「そうね。お母さんも久しぶりに見たわ」
「父さんもだ。やはり神秘的なもんだな」
四人の会話は、千夜とギーの耳には相変わらず届いていないようだった。二人はどちらも折れていない様子である。
「おい」
暫くの間画面上から退出していた、サポートセンターの職員が戻ってきた。
一声かけても全く気づかないギーに向かって、イトウは声を張り上げる。
「オイ。おーい! ギー! オイってば!」
「何? イトウさん。まだ決めてないんだけど。大切なことなんだ。もうちょっと待ってよ」
あからさまに迷惑そうな視線を受けて、イトウは「チッ」と舌打ちをした。
「パスした」
「え?」
「パスした! 受かったんだよ、し・け・ん! お前は正式に成人と見なされる」
「試験……」
息を呑んだ音は、おそらく千夜にも聞こえただろう。
――そうだ、俺の試験。千夜ちゃんの願い事
腕の中の愛しい人を、ギーの瞳がとらえた。
緩められた腕の中で、千夜はようやく自由になった顔を上げていた。そして画面の向こう側の人物達もギーも、皆が自分に注目していることを知ったのだった。
「おめでとう、ギー」
イトウが言った。
「やっと試験が終わったな。千夜ちゃんも、おめでとう。良かったね。君の願いは確かに成就した」
――チョコと同じくらい、誰かを好きになってみたい
半年前の流星群の夜。
自然と口をついて出ていた願い事。千夜が当初想定していた度合いを超えて、その願望は叶えられていたのだった。
「チョコと同じくらい……? 違う」
つい先程言葉に出した、ギーへの想いを推し量る。
「チョコよりもずっと、ギーくんのことが大好き」
その時。地球人の千夜には見えなかったが、その場のエスリ人達は目撃した。
まるで千夜の足元から、間欠泉が噴き出したかのような光景だった。
「エネルギーだ……」
「エネルギー?」
驚愕の表情のギーに、千夜は首を傾げている。
「すごい量だな。なかなかないぞ!」
「これって、これって、もしかしてすごいことなんじゃない⁉ ギー兄!」
「それだけ願いが切実だったってこと? すごいわ……ギー」
「難しい願いだったんじゃないか? 確かに時間かかってたからなぁ」
はしゃぎだす兄妹に、感極まる様子の父母。千夜は彼らに「何が起きたんですか」と問いかけようとしたが、興奮した様子のイトウの声が、それを遮った。
「上に報告してくる!」
職員の姿が画面から消えた。
彼が再び戻ってきた時、千夜とギーにとってこれ以上ない素晴らしい提案が出されることになるのだが、それは数十分後の未来の話である。
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